虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

強者の宴 その01



 さまざまな環境が用意されている『千変』と『万化』の異界。
 俺が指示を送るエクリは、与えられた擬似スキルを検証しながら会場へ向かっていた。

「入り口に到着しました」

『登攀スキル、空歩スキルもできたのか……やっぱり絶対に不可能ってわけじゃないみたいだな』

「他でもない創者様によって、創られたからこそです。ただの機体、人形であれば成し得ることなどできませんでした」

 さまざまな人造物の要素を統合しているので、それらの強みを兼ね揃えている。
 中でも人造人間の経絡によって、人と変わらない精度で身力の運用が可能だ。

 今回も上手く精気力を使い、壁を登ったり二段ジャンプをしている。
 それが無くともやることはできたが……やらないとできないは違うからな。

『時間は……まだ大丈夫みたいだな。遅刻する前に、会場に入っておこう』

「畏まりました。モードをオートからサポートに切り替え、創者様の操作を委ねます」

『すまんな。大切に使わせてもらう』

 そして、ここで俺の視界は切り替わる。
 これまではアイプスルからの遠隔操作で、画面越しにエクリの視界を間借りしていた。

 しかしここからは、完全に俺がエクリを操縦する形となる。
 さながらオンゲーからVRへ……うん、次代の変遷と同じ感じだった。

「前よりも同調率を上げてもらったからな。うん、違和感なく動かすことができる」

 口の方も流暢に動く。
 さすがは『ハートギア』、完全な自我が定着したお陰で最適化されたな。

《──リンク完了。『生者』の権能を使用することが可能です》

「ありがとう、『SEBAS』。しかし、これもこれで結構なチートな気が……まあ、今は置いておくとしよう」

 改めて、眼前を見る。
 そこには巨大な宮殿がそびえており……ちなみに前回、ドローンを飛ばしているがこんな物は発見した覚えがない。

 事前に場所を借りて造ったか、もしくは他所から取り寄せたか……はたまた、埒外の権能を使い一瞬で生み出したか。

 どんな方法だろうと、参加者的にあり得るだろうな。
 理を超越した『超越者』、そして理の頂に立つ最上位職業に就く者たちばかりだし。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 宮殿の内部は高級感に満ちていた。
 金銀財宝で煌びやかなわけじゃないが、壁や床などの素材の一つ一つに高品質の品が使われているのだ。

 白亜の宮殿、そんな呼称が一番だろう。
 そこに集う者たちは、それに見合う格好をして……いない。

 我の強い人たちばかりだった。
 やれやれ、俺みたいにマシな奴は珍しい方なんだろうな。


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