虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

生産ギルド会議 その08



 挨拶は残り一人、沈黙を貫いていた女性型の人形。
 素材から人に近しくなるようやっているのだろう、その再現度はこの中で一番だ。

 彼女がゆっくりとこちらに目を向ける。
 ──この場の誰よりも、小さく作られた人形を用いて。

『──少しいいかい、『生者』さん』

『はい、何か?』

『私は【超合薬師】、薬師と呼んでくれればいいよ』

『では……薬師さんと。ところで、その話とはいったい?』

 声の質からして、少女のはず……なのだが違和感を覚える。
 なんというか、達観した老人といった感じなんだよな。

『──『錬金王』さんは、お元気かしら?』

『そうですね……ええ、お元気です』

『そ、そうなの?』

『はい。今はその座をお弟子さんにお譲りしておりますが、新しい錬金のやり方などを工夫していましたね。何か、伝言などがあればすぐにでもしますが?』

 すでに『プログレス』は持っているので、彼女に連絡をすることはできる。
 しかし、薬師は首を横に振った……とても嬉しそうに。

『遠慮しておくわ。私と彼女は、元はライバルだったのよ。でも、あるとき不死の病に侵されて、それから音信不通……元気になっていてよかったわ』

『そう、ですか……薬師さん、貴女には特別にこちらを』

『これは……『プログレス』の?』

『ええ、拡張アイテムです。何が入っているのかは……お楽しみに、ということで』

 後で渡してもらうので、どうせ今から確認することはできないけどな。
 これで挨拶は終わった、改めて俺はこの場に居る者たちに人形越しで言葉を伝える。

『──皆さんには、『プログレス』をお一つお渡しする予定です。ご自身で使っても、お知り合いにプレゼントするのもご自由に。お近づきの印です、どうぞお納めください』

『おや、僕だけのプレゼントは貰えなかったみたいだね……少し残念だよ』

『いえいえ、もちろん数学者さんにもご用意しておりますとも──こちら、ある数式をご用意しました。楽しんでいただければ、何よりですね』

 印や鍛冶師などは、数式だけ? みたいな目を向けていた。
 しかし当の本人や薬師などは、その意図が理解できているようで。

『……これは、挑戦状と受け取ってもいいのかな?』

『いえいえそんな、先ほども申した通りお近づきの印です。必ず、ご満足いただけると信じております』

『そうかい、なら楽しませてもらうよ』

 なんて話をして、会議は終わり……とはいかないのが現実。
 俺を呼び出したのは、自己紹介のためだけではないからな。


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