虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

生産ギルド会議 その01



 物凄く今さらな話だが、俺は生産ギルドに所属する特級会員だ。
 創作物の定番で言えばSランク、相応の待遇を受けている。

 理由は単純に、俺以外にそれを作ることができない品を提供しているから。
 蘇生薬だの万能薬だの、作るにしても膨大な金と時間が掛かる物を俺は数分で作れる。

 それ自体は隠しているが、劣化させてもなお超高品質なポーションを売り捌いていた。
 定期的に売っているため、かなり儲けている俺はこちらの世界でなら金に困らない。

「単純な所持金で条件を満たせる職業があるなら、俺はもう全部クリアしているよな?」

《──【大富豪】、【商王】、【燃金術師】などが大量の金銭を必要とする最上位職業であり、旦那様は既に琴線に関する条件を達成しております》

「最初の二つは何となく分かるけど……最後の奴はなんだ?」

《【錬金術師】から特殊派生する職業で、貴金属を触媒に高速錬成を可能とします》

 ああ、金を燃やすから燃金なのね。
 おそらく就職の条件は単純な金銭の保有や消費ではなく、錬金術関係で膨大な額を浪費するということなのだろう。

 生産関係の職業はほぼ開示されている俺だが、生産以外の要素も内包されている職業に関しては未開放だった。

 その【燃金術師】とやらは、錬金の成果だけでなく使用額も査定に入るわけで。
 ついでに言うと、それを戦闘でしっかり使わないといけないのでまだ未開放なのだ。

「最近は意図して大量買いしたうえで、複製してから分解とかして遊んでたからな。そういうことが、条件達成に入ったのかもな」

 最上位職業ともなると、非常に面倒な条件があるのでそうそう就くことはないけど。
 稀に【勇者】のように、条件を無視して解放されるような例が無い限り。

「……まあ、最上位は相応の経験値が必要になるからもうこりごりだよ。【生産勇者】の全開放が終わったら、もうしばらくは下位の職業に専念しよう」

 昔よりも【試験職】があるので、効率的に経験値を稼ぐことができる。
 どんな行動でも経験値にしてくれるので、“職業系統樹”との相性がいいのだ。

「──さて、現実逃避はそろそろ終わりにして入るとしますか」

 なぜ俺が、最初に生産ギルド云々のことを考えていたのか。
 それは本日、『プログレス』経由で来るように[メール]が届いていた体。

 どういった理由なのかはその場で話すとしか伝えられておらず、正直ロクなことが無い気がする……それでも恩人であるギルド長のためにも、俺は決心して行くことを決めた。

 ──せめて、何度も死なないような流れにならなければいいけど。
 そう思わざるを得ない、しかしそれは叶わないだろうなぁと思うのだった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品