虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
息子の悩み 前篇
「ねえお父さん、相談があるんだけど……」
「ん? お小遣いなら無理だぞ」
「……そうじゃなくて、EHOのこと」
「ああ、そっちなら問題ない。好きなだけお金が落とせる魔法のカードをやろう」
「だから、お金のことじゃないって」
休日、そろそろログインしようかと思っていたところで舞から声を掛けられる。
てっきり金銭関係かと思ったが……そう考えていると、翔もやって来た。
忘れられていると思うが、EHOには課金システムがある。
無くても困らないが、あったら便利……その程度なので気にしてはいないけどな。
「実は……パーティメンバーのことで少し問題があったんだ」
「なんと、すぐに母さんも──」
「お母さんを呼ぶのは止めてあげて……なんだか嫌な予感がするもの」
「……それもそうだな」
瑠璃はリアルでも幸運の女神様なので、彼女が望んだ展開に世界は動く。
もし翔に、仲間──しかも全員女子との問題があると知れば……何か考えるだろう。
たとえそれが冗談だったとしても、世界は彼女に気を利かせる。
その結果起きるのは、昔のラノベなどでありふれたテンプレ的展開だ。
「父さんはオンラインゲームで、あの母さんも抑えてリーダーだったんだから! 何かいいアイデア無いかな?」
「うーん、まずは話を聞いてみないと分からないな」
というわけで、俺は翔から話を聞くことになった……なお、舞は目を逸らしている。
たぶん、それだけ面倒な内容ということだろう……父として、頑張らなければ。
◆ □ ◆ □ ◆
──想定以上に面倒臭そうだった。
「なるほどな、要するに彼女たちがそれぞれラノベ並みに問題を抱えていたと……なんというか、お前も立派に瑠璃の息子だな」
「どうせなら俺も、母さんみたいに何でも思うようになりたかったよ。もしくは、父さんみたいにここぞで凄い感じ」
「ははっ、俺はそういう感じじゃないさ。俺には運が無いからこそ、母さんがちょうどそれを補ってくれているんだよ」
二人は胡散臭そうに見ているが、それが事実なのでそう思ってもらおう。
翔の問題は、まさに瑠璃の息子だからこそという主人公みたいなものだった。
実は知り合いの可能性があったり、実は大財閥の娘さんだったり、実は過去に救われた相手を探しているなど……そしてそこかしこで、自分が関わっている可能性が高いと。
「さて……この話、一番の解決方法はこれを母さんに話すことだ。なんとかしたい、何かアイデアは無いかと父さんに言ったことを言うだけで問題は解決する。しかし、二人はそれだけは嫌なんだな?」
「母さんに頼りたくないわけじゃないけど、やっぱり……」
「……お父さんが言うみたいに、ラノベみたいな展開になりそうだから」
かくいう俺であれば、そんなことにもならず無難に終わるわけだ。
……目から汗が出てきそうになるが、どうにか堪えてアイデアを伝えよう。
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