虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣談 前篇(01)
祭りは幕を閉じ、大森林は再び獣たちの楽園と化した。
人を受け入れていた賑やかな雰囲気は薄れて、野生の力が覆っていく。
「……へぇ、んなことがあったのか。あははははっ、俺もやりたかったなぁ!」
『笑い事ではありませんよ、当代【獣王】。これほどまでに、神々に愛された者が現れただけでも本来は異常事態。そんな存在が複数人いるうえ、それぞれが意志を貫こうとしています。これでは、このままでは──』
「神代ってか? 俺は口伝でしか知らねぇからな、その話。なあ、その頃の【獣王】ってどこかの神と戦ったのか?」
『……そのようなこともあったそうですね。森精の神や山精の神、また彼らの使徒などと死闘を……とこの話はいいでしょう』
中央区から向かうことのできる聖域、聖獣である聖翠狼の住まう場所。
そこに残された唯一の人、兎耳種の獣人である【獣王】は聖獣より話を聞いていた。
ツクルは祭りの最中に試練を果たし、聖獣の加護を授かっている。
しかしその過程で獣神が介入した結果、模造品の災凶種と相対していた。
『我らが神がそれを必要とする事態が、すでに動いているということです。我らが神、そして創造神様らは彼の『生者』を選択しました。そして、その他の神々もまた……』
「で、なんだかんだで代理戦争になると。そりゃあ、ヤバいわな……それで、そのまま放置したらどうなるんだ?」
『──世界が滅びます。比喩でもなんでもなく、神々の力とはそれほどまでに強大なのです。自浄作用が多少なりとも働くことになりますが、それでも大陸中の生命が極端に減少するでしょう』
「ははっ、そりゃあ不味い! 俺もただのウサギとして死んじまうのかもな! ……けどまあ、それにうちのガキどもを付き合わせるわけにはいかないな」
聖獣には、とある能力が共通して備わっている。
それは情報の受信、神や同種から知識を完全な形で受け継ぐことができるのだ。
そして、その中に存在するかつての時代に生きた聖獣の記憶。
それを基に聖翠狼がこの世界に見たのは、まさにその時代をなぞる有り様。
そんな事態を防ぐため、招いたのが現在の【獣王】である彼女。
戦闘狂である彼女だが、こと家族が関わることであれば親としての判断ができる。
「それで、俺たちにできることは?」
『……今はありません。ただ、その鍵は間違いなく『プログレス』にあります』
「はっ? なんでアレなんだ?」
『アレは特異点であり、異物です。本来逸脱した『超越者』のみに与えられた権能を、誰でも使えるようにした存在してはいけない代物。しかしそれを、創造神様が祝福された。その存在は認められたのです』
そも、『プログレス』とはその雛形である機械龍を参考に創られた代物。
無限に成長する機械を、劣化して誰でも使えるようにしている。
だが、その雛形自体が危険故に封じられていたのだから、どれだけ劣化しようとその存在はすぐに封印されるはずだった。
しかしそれは、ありとあらゆる生に許しを与えることができる創造神によって、存在することを許される。
故に『プログレス』は普及し、今なお人々と共に進化を続けていた。
それこそがカギになると……その本当の意味を聖翠狼は語る。
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