虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭終篇 その18



 祭りを楽しみながら、掘り出し物が無いか探す日々。
 俺ほどではないが、加護や許可を得て中央区へ向かうも者も日に日に増えていく。

 それでも南地区はいつも賑やかで、いつも異なる姿を見せてくれる。
 抽選で出す店が変わっているようなので、その都度確認してはアイテムを買っていた。

「──というわけで、申し訳ありませんがまた後程ということで……」

「なあ、そんな話が通ると思うか?」

「……やっぱり、ダメですか?」

「いいんじゃねぇか? あとで王に逆らった罪でしょっ引かれたくねぇならな」

 からからと笑う【獣王】に、俺は何も言えなくなる。
 愉快そうにうさ耳を揺らすのは良いが、告げる内容が無茶苦茶だ。

「加護、貰ったんだろ?」

「ええ、まあ……お陰様で。少々手間は掛かりましたが、なんとか」

「? 普通に会って、なんか面倒な儀式をして貰ったんじゃねぇのか?」

「……【獣王】様がそれを言ってはいけないのでは? 途中でいろいろとございまして」

 恩恵を受けているというのに、どうしてそこまであっさりと……。
 ただまあ、正規の方法を教えてもらえたのは何よりだ。

「何があったかと言いますと──」

「ああいや、ちょっと待て。少し場所を変えるぞ……さすがにここで話すとバレる」

 それは情報が洩れるという意味なのか、それとも王子や姫たちにという意味なのか……いずれにせよ、ピンと張った耳が周囲を警戒しながら移動する。

 人の居ない場所に森の中へ移動して、体験したことを説明しだす。
 周囲には防音の結界を展開したので、音漏れで俺たちの居場所は分からない。

「──ということがございました。あの、どうしてそこまで興奮されているのですか?」

「ああ? 聞くまでもないだろ、んなこと。マジで凄ぇな……休人ってヤツは、そういう機会に恵まれてんのか?」

「恵まれ……どうでしょうか。私としては、もっと平穏な生活を望んでいるのですが」

「『超越者』な以上、絶対ありえねぇな。うちの旦那もそうだが、どいつもこいつもロクな話を聞かねぇ……アレだな、運命にでも見放されてるんじゃねぇか?」

 夫が『覇獸』な彼女なので、その言葉の重みが違う。
 ……急に目が死に始めた辺り、それは周囲も巻き込んでいるな。

「まあ、この話は要するに、お前が加護を受けてもっと強くなったってことでいいか?」

「……いえ、あくまでも加護の性能を高めていただいてもらっただけで、【獣王】さんが望んでいるようなことは──」

「細かいことはいいんだよ! 誰も居ねぇ、目の前には強者! なら、やることは一つに決まってんだろ!」

 戦闘狂なウサギ様が、何をしようとするのか……うん、最初から分かっていたさ。
 だが俺は哀れな生贄ではなく、運命に抗い続けてきた知恵ある小動物。

「事前に説明した通り、この結界は周囲から音を遮断します。ですが、同時に内部へ外部の情報を漏らさないという効果もあります」

「あん? どういう……っ!」

「──お迎えが参りましたよ。ご子息たちのことを、大切にしてくださいね」

「『生者』……今度会ったら覚えてろよ」

 泣き寝入りをするわけにはいかない。
 次にこんな機会があっても、絶対に送還してやろう……そう思う俺だった。


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