虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭終篇 その17
今さらだが、俺はここだと金持ちである。
蘇生薬や万能薬を希釈した(それでも効果が絶大な)ポーションを売り捌いた結果、億万長者になれるほど儲かっているからだ。
正直、お金でなんとかできる問題なら大抵はクリアできるといっても過言ではない。
というわけで、せっかくなので【商人】や【見習い商人】を用いて購入をしていた。
お金には困っていないが、交渉したうえで買う経験を持つことが条件な職業もある。
やはり商人にとって、そういった成功経験が必要なのだろう。
「コピーしておいた【非業商人】さんの職業効果も使えるからなー。システム頼りで商売するなら、俺ってだいぶ厄介だな」
この世界の商人たちは、スキルを駆使して商取引を繰り広げている。
計算を素早く済ませたり、相手になんとなく安く売らせたりと……いろいろ可能だ。
とはいえ、相手に働きかける方には成功判定が存在する。
口の巧さは大前提、加えてスキルレベルの高さや種族・職業レベルの差で決まるのだ。
そのうえで、成功判定によって促される相手の要求を受け入れるかどうか。
成功しても、絶対に要求が通るわけではない……交渉のシステムは複雑なのだ。
「俺の場合、交渉は最上位職業の補正を受けているし、複数の[称号]をセットできるから単純に成功率が高い。そして何より、そもそも俺に成功判定って無意味だからな」
《判定は絶対ではありません。最終的な判断は個人に委ねられます、そして、外部からの干渉で変化を促すことが可能です》
さすがは『SEBAS』な──略してさすセバな案件だ。
他人の意見で考えが変わったなら、変わった意見も訂正させればいいだけのこと。
俺よりも優れた商人なんてごまんといる。
職業能力を拝借した【非業商人】さんのように、相手に損をしたと思わせない者たちこそが優れた商人。
彼らはスキルに頼るだけではなく、自身の弁舌や表情などの現実では必須のテクニックも磨いているのだ。
そこにそれらの当たり前をこなすことで、得られる経験値を使い育ったスキルや職業の補正も働き、交渉はより上手くいく。
彼らはより商業を発展させ、時にぶつかり合い……これまた当然ながら、強者同士で商取引を行うことで経験値を増やし、さらに経験値を貯めていくのだ。
「こういう出店の人ならともかく、デッカイ店をやっている商会長なんかを相手にしたらポッキリだよ。本当、【非業商人】さんにも何度全部任せてしまいそうになったか……」
《彼は非常に優れた商人です。旦那様だけでなく、その繋がりを見せたうえで【情報王】とも正当な取引が行えるのですから》
「みんなに等しく同じ態度で……ってのは、なかなかできないよな。何かしらしこりが生まれれば、それを意識してしまう。それを見せないでできるのは……どれだけの経験を積めばいいのかな」
なんて思い出話を『SEBAS』としながら、アイテムを買い漁っていくのだった。
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