虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭終篇 その07



『一騎当千の力、しかと拝見させていただきました。たとえどれだけ強化されようと、有象無象では敵うことはないでしょう』

「……お褒めに与り光栄です」

『獣神様は仰りました。貴方様に、更なる試練を課すと。より強大な魔物が、この場に降臨することでしょう』

「ええ、前回の神練でも同様に、最後は特殊な魔物が現れましたね」

 あのときはやり過ぎたせいか、なんだか不完全な感じだったけども。
 今回も中途半端に試練が切り上がったが、大丈夫だろうか?

 魔物たちが次々と粒子になっていくと、やがてその奥で蠢いていた物が動き出す。

「あれ、は……いったい」

『……『侵雪蝕界[スノウエスト]』。かつて、この世界を蝕んだ災凶の一種、その模造品です』

「模造品……あれで、ですか」

 俺の死亡レーダーは『生者』に結びついているもので、生死に割と関わっているためか今回は封印されている。

 それ自体は他の魔道具や職業スキルでどうにかなっていたので、別に構わなかったのだが……使えないはずなのに、今の俺は本能から危険を訴えかけられていた。

 胎動していたそれは、やがて小さな小さな球体になっている。
 微精霊、自我を持たない生まれたての幼い精霊と同じくらい小さな姿だ。

 しかし、その存在感はかつて見た高位の精霊たちを遥かに超えるヤバさ。
 名称から察した、あれが北のエリアで未だに蠢く『侵雪』を生み出した存在なのだ。

『かつて出現した際──神々の加護を授かりし人、守護獣、そして『超越者』たちがどうにか封印した災凶種。あれはその記録を基に作り上げられたものです。試練用に劣化はしておりますが……それでも危険ですよ』

「……充分に、肌で感じております。この雪も、結界を纏っていなければすぐに私を蝕んでいたことでしょう」

 そう、[スノウエスト]とやらはすでに攻撃を始めていた……いや、ヤツにとっては攻撃ではないのかもしれないが。

 振りまかれたそれは雪に似たナニカ。
 触れた個所から生命体を蝕み、狂わせる魔性にして魔障の雪。

 俺には常時肉体を動かすための結界が張られているため、どうにかなった。
 しかし、普通の人々がそれに対応できるわけがない……だからあの地は滅んだのだ。

「私に、アレを倒せと?」

『貴方様であれば、それができるであろう。そう獣神様は仰っております。ルールの制限は変わりません、神々の権能を乱用することなく勝利せよとのことです』

「……分かりました。その命、やり遂げてみせましょう」

 幸いにして、こういうタイプなら根気よくやれば攻略法ぐらいは見えてくるはずだ。
 不可能ではない、そのためにできることはまず観察だろう。

《──畏まりました。旦那様に勝利をもたらしましょう》

 頼れる『SEBAS』も居るのだ、負けるわけがないのだから。


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