虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭終篇 その02
資格を持つ者──つまり俺が中央区の中心に立つ、それが条件だった。
祭りの出し物として多少の待機を依頼された後、設置された台に立つとソレは起きる。
俺の周りに描かれた幾何学な紋様。
その中で九個の印が浮かび上がり、いっそう輝きを増す。
「これが……!」
《聖気の供給を確認。擬似的な祝福を行っているようです》
「この後はどうなる?」
《供給されたエネルギーを用いて、亜空間へ転移されます。旦那様が風兎に隔離された領域の上位互換です》
だいぶ前のことだが、そういえばそういうこともあったな……と昔を懐かしむ。
要するに、その内部であれば支配者がやりたい放題にできる場所へ招かれたわけだ。
周囲の参加者は……聖気を浴び、歓喜しているので気づかない。
気づいているのはごく一部の、『覇獸』などの強者のみ。
まあ、そういった存在はわざわざ俺を救おうとはしないけど。
何が起きるのか分かっていて、いっさい死に瀕しないわけだしな。
「──それじゃあ、行ってきます」
いちおう言い残し、転移特有の感覚に身を任せてこの場から飛ぶ。
向かうのは聖獣様の領域……さて、どうなるのか。
◆ □ ◆ □ ◆
『──ようこそお出でくださりました、獣神様の加護を持つお方』
真っ白になった視界が回復する中、はっきりと伝わってきた歓迎の言葉。
ゆっくりとそれが治っていくと、像をより詳細に把握することができる。
そこで待っていたのは、とても巨大な狼。
その体毛の色は、色鮮やかな緑を髣髴とさせる翡翠色だ。
『すべて、獣神様よりお聞きしております。一騎当千を成し得る戦士でありながら、その力は創造神様より賜りしもの。そして、超越せし権能は死神様由来のもの……複数の神々が祝福せし、異界の民であると』
「……なんだか壮大な話ですね。私はそれほどの者ではございませんよ。ただ弱く、物作りの権能を賜った死神様の神練を乗り越えた『超越者』──『生者』です」
『ええ、それだけで充分に凄いですよ。一人として、これまで死神様の神練を乗り越えた者はいないのですから』
「それもまた誤解ですよ。私はおまけしてもらい、やったといったところです。あまりに虚弱なので、死神様に神練の難易度を下げていただきましたので」
初期の状態だと自動回復能力を持ち合わせていたので、1ダメージずつしか与えられなかった俺では一生終わらなかっただろう。
ついでに言うと、だいぶ俺に配慮してくれていたからな。
神練中のイベントには参加できなかったけど、[ログアウト]はちゃんとできたし。
『──さて、本題に移りましょう。貴方様に関することで、獣神様から宣託が』
「……いったいどのような?」
『加護は試練を経ての賜物であると……本来九つの加護を有する貴方様には、何もせずとも与えられるものでしたが……申し訳ありません。神の御言葉は絶対ですので』
「いえ、授かることができるチャンスがあるだけ充分です。それに、私にとって死は終わりではありません。より先の未来を生きるために、力を得られるチャンスですので」
そんなこんなで、聖獣様の試練を受けなければいけなくなった。
……せめてその内容が、簡単なものならばいいんだけど。
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