虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭終篇 その01
そして、迎えた翌日。
EHO側の世界ではより時間が加速し、すでに数日が経過している。
つまり、何かをするために必要なだけの時間が整っていたわけで……。
「えっと……これは?」
「──決まっているだろう。聖獣祭においても例を見ないほどに珍しい、聖獣様への謁見が叶った者を祝う祝杯だ」
「……『覇獸』さん、仰っている言葉の意味がよく分からないのですが?」
こちらへ[ログイン]してきた俺が目にしたのは、宴会騒ぎで盛り上がる者たちだ。
なぜそうなっているのか、不思議そうに見ていた俺の下に現れたのは──『覇獸』。
王配である彼がどうしてここに居るのか、それは先ほど語られた内容に繋がっている。
要するに、この祝いは国が絡んだ大規模なものというわけだ。
「聖獣様の下へ祭りの参加者が向かう際、僅かながらに力が漏れ出す。その恩恵にあやかるため、こうして中央区に来れる者たちは全員集まっているわけだ」
「……漏れ出す、のですか」
「意図してのものだ。聖獣様の聖気は森に恵みをもたらすからな。獣人がその力を直に浴びれば、聖獣人へと昇華できる……とも言われているほどだ」
「…………いろいろ、おかしいですね。なぜそれが仮定の話なのか、実際にその先へ辿り着いた方がどうなったのかが正しく伝わっていないかなど」
聖獣人はその名の通り、聖なる力を使うことができる獣人である。
それは【獣王】の権能でも対象にはできない、特殊な在り方を持つ個体だ。
「……聖獣様の下へ辿り着いた者は、ここ数百年誰も居ない。それゆえに、これも王家に伝わっていた文献から知ったことだ」
「…………たしかに、九つの許可を集めるのはひどく苦労しましたよ」
「五つで到達できる以上、それ以上を求める者が少なかったこと。そもそも、八つを集めることすら難しいこと。九つ目を見つけ出すことができないこと……挙げようとすれば、こんなにも簡単に理由が出てきた」
「そうですね。ただ、『覇獸』さんなどであればできそうな気もしますけど?」
どうやら、王家関係者は祭りへの参加が認められていないようだ。
まあ、ダメなのは聖獣様の下へ向かうことだけで、暴れるのはOKだったらしい。
「……我が妻も、もっと抑えてくれればよいのだがな」
「なんというか、お察しします。私の妻も、私の予想なんて遥かに超える行動力で活動していますので」
「……初めてお前と、美味い酒を酌み交わせると思ったな」
「ええ、私の方はすでにそう感じていましたよ……今度、一杯やりましょう」
そうこうしている内に、向かうための準備が整ったようだ。
……さて、ようやく聖獣様を見ることができるわけだな。
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