虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭後篇 その19
所変わって中央区の中心辺り。
この祭りの参加者たちも訪れるそこに、俺と幼き森獣はやってきた。
『ほ、本当にやるの?』
「力を望むのであれば、その力を持つに相応しい器であることを証明してください」
『……僕だって、守護者なんだから。うん、それじゃあお願い!』
「分かりました──そこ行く祭りの参加者の皆さん、どうか少しだけ御時間を頂けないでしょうか!?」
俺の声に、ほとんどの人が足を止める。
そして、俺の隣に立つ獣人……の姿をした強大な存在感を放つ幼子に目を向けていく。
「この御方こそ、この中央区の守護者様! 本日は皆様に、聖獣様に謁見する許可を得られるチャンスを与えるべく現れていただきました!」
『チャンスだって!?』
「ええ、ええ。周囲の区画は八つ、しかし謁見に必要な許可の数は九つ。ならば、必然的に足りない数をどうするか……その機会が、今この瞬間なのです!」
『ウォオオオオオオオ!』
獣人たちにとって、聖獣とは神様に次ぐ重要な存在。
大森林のすぐ近くに住んでいるので、その守護者の長たる聖獣様を崇める者も多い。
だが、祭りの期間中に出会うための条件を満たせずにいた。
そんな中、降って湧いたようなこの絶好の機会……そりゃあ盛り上がるわけだ。
「ルールは簡単! このお方と模擬戦を行い勝利すること! これはお祭り、皆さんで満足させてあげましょう!」
『ウォオオオオオオオ!』
先ほどから、彼らの叫び声が上がる度にビクビクしている幼い森獣。
覚悟はまだ、完全に決まっていないのだろう……それでも、ギュッと手を握る。
『ぼ、僕に挑みたい人は並んで!』
森獣を敬う参加者たちは列を成す。
この場に居るのは周囲の区画で認められた者たちのみ、故に横入りをしようとする輩はそもそも存在しない。
「──それでは、スタート!」
そこから、幼い森獣に挑戦する参加者を俺はずっと観察していた。
亜空間に潜む力を持つ彼は、それなりに参加者たちに勝利している。
だが、本当の強者が相手となるとそう簡単に勝てなくなる。
隠れても現れた瞬間を狙われたり、そもそも隠れる前に襲われたり……方法は無数だ。
それでも頑張り、勝利を重ねていく。
負けたときはそれをしっかりと認め、その者に許可を与えていた。
『はぁ……はぁ……』
「──そう、その経験が必要なんだ。他者と関わり合い、そこで得たものをこれからどう生かすか……『プログレス』は切っ掛けであり、力そのものじゃない。今のままじゃ、渡せなかったからな」
そっと、誰かに伝えるように声を零す。
きっとその誰かは、それを聞いて何かを考えてくれるだろうな。
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