虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭後篇 その15

連続更新です(10/12)
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 邂逅した森獣『緑鹿』。
 試練内容は質疑応答、問われた何故。

 この先へ向かおうとする理由、それを伝えなければならない。
 別に温めていたわけではない、ありのままの答えを語る。

「──そこに、意味があるからです」

『意味……それは?』

「魔物が他者を襲うのが生きるためであり、人が欲を満たすのが本能であるように、私が先へ向かうことには意味があるのです。誰にも理解されなくても、ただ進むだけの理由を共に抱いて」

 そもそも、EHOを始めた者が求めているモノ──それが非日常だ。
 現実には無いナニカを求めたからこそ、俺たちはここに居る。

 緑鹿がこちらの世界のことを知っていたならば、もっと分かりやすいたとえを言うことができたんだけどな。

「──『そこに山があるから』」

『……それもまた、欲の一つなのか?』

「ええ。登山家が山を見て登りたいと思うように、冒険者がより高難易度の冒険を求めるように、探索者がより深い迷宮を求めるように。私もまた、皆さんの加護を授かったうえで聖獣様へ拝謁を願いたいのです」

 分からずとも、何を言いたいのかは分かってもらえたようで……。
 しばらくすると、緑鹿はその角を光らせながらこちらをジッと見つめてくる。

『──合格だ。許可、そして加護を貴方に進呈しましょう』

「ありがとうございます。差し支えがなければ、その理由をお聞かせ願えますか?」

『簡単な話、そこに真剣さがあって悪意が無ければ加護は渡していた。貴方の話はふざけたようなものではあったが……それでも、本気というものを感じられた』

「生半可な覚悟では、これまでの皆さんの試練は超えられませんので」

 五つ分ならともかく、八つ+一つを得るのはとても難易度が高いと思う。
 緑鹿の試練をここまで後回しにしてきたからこそ、そう感じている。

『それもまた、加護を与えようと思った理由だ。私の試練は比較的簡単で、最初に済ませようと考える者がいる。原因はともあれ、他の森獣の試練を経てなお、加護をも求める欲に備わった覚悟もまた好ましかった』

「ええ、子に恥じぬ親でありたいと。妻といつも語っておりますので」

『ならば、それを聖獣様にお目見えすることで証明してもらいたい。私の加護は森での活動に補正を与えるという物、今さらながらその行いを支援できるだろう』

「ありがとうございます」

 よかったんだが、どうせなら最初に欲しい加護だったな……と改めて思う。
 まあ、とにかく八つ目の許可と加護をゲットしたし──最後の一つを手に入れようか。


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