虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭後篇 その09

連続更新です(04/12)
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 完成した『隠匿ポーション』を口に含む。
 ノーマルの『隠蔽ポーション』を強化した結果、『隠密ポーション』という一段階下のポーションを超えて昇華したようだ。

 飲んだ俺自身に、その変化は分からない。
 自分の姿が認識できなくなるとか、そういう問題は発生しない……だが、周囲にとっては効果的なのだろう。

《うおっ……目の前を通っていったな》

 獣人の男性が一人、足音を立てないように疾走して通り過ぎる。
 これまでも、極まれに俺と同じ順路を通る参加者はいたが、少し避けて通っていた。

 だが、隠匿ポーションを飲んだことで、彼らも認識できなくなったのだろう。

《問題は、これが森獣にも通用するかどうかだな。ここいらの分体はどうにかできているが、そのうち通用しなくなるかもしれない》

《魔道具を利用なさいますか?》

《それでもいいけどな……まあ、見つかる前にそれっぽい反応があるのも分かったし、その兆候を見受けられたら考え直してみよう》

《畏まりました》

 説明は省くが、見つかったら即アウトというわけではない。
 まずは警戒され、それでも動きがバレればアウトになる……かくれんぼと同じだ。

 隠匿ポーションのお陰で、その警戒状態にも今はなっていない。
 システム的な隠匿は、俺の存在そのものを周囲から感じ取れないようにしていた。

《今がだいたい……七割、いや八割ぐらい。九割からは本体が監視に入るから、準備できる時間はあんまりないな》

 順路、と言うだけあって俺の言う一割ごとに警戒されない休憩地点がある。
 見えてきた八つ目の休憩地点を見ながら、『SEBAS』と話し合う。 

《そうだな、アイテムは発動すれば職業の方は切り替えができる。【生産勇者】から別のモノにしよう》

 効果延長の効果もあるので、『巧天』の方はそのままにしておくが。
 職業を、隠れるために最適なモノに変えておこう。

《では、【隠者】への転職を実行します》

 選んでもらったのは、隠れることに特化した職業である【隠者】。
 俺の問題で一次職ではあるが、何もしないよりは効果的だろう。

《あとは、ポーションを飲んで再度隠匿の効果を付与して……うん、これでいいか。他にできることがあると思うか?》

《結界を隠蔽仕様にしてはどうでしょう? 旦那様が初期に創造したアイテムですので》

《元にしたのが『龍王』さんの結界だったからな……》

《現在は継承されておりますし、彼自身結界の能力は権能ではなく職業由来のものを用いていました。直接は反していないのでは?》

《それもそうか……分かった。バレるぐらいなら、使ってみるか》

 やはり、『SEBAS』は俺のどうでもいいこだわりを振り払ってくれるな。
 少なくとも、これは気にする問題じゃないか……たまにルリにも言われるけど。

 ランダムなんて大雑把なことができているのに、どうして小さなことにこだわるのか。
 まあ、特に理由も無いから、言われればすぐに止めるんだけども。

 ともあれ、これにて準備は終わり。
 ──ゴールに向けて前進だ。


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