虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭後篇 その07

連続更新です(02/12)
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 幸いにして、すぐに見つかるということはなかった。
 進めば進むほど、森獣の察知領域内に入るとのことなので……今は、というだけだな。

 ぬくぬくとした現代に生きる俺は、他者の気配を読み取ることなんてできない。
 だが、便利な死亡レーダーが、周囲の生命体の反応を教えてくれる。

《全然、まったく気づけないんですけど》

 周囲には数人、潜んでいるらしい。
 大人と子供で分かれているのだが、それ以上に複数の順路が存在する。

 なので、俺と同じ場所に参加者は居ないのだが……それでも、全然なんだよ。

《なあ、『SEBAS』。普通のやり方は、どういう感じなんだ?》

《周囲に身力を伸展させ、その領域内での気配を探ります。獣人であれば、主に精気力APを用いております。肉体の強化をする場合、精気力がもっとも効率の良い運用法ですので》

《つまり、他の種族だと魔力MPとか生命力HPで探す種族も居るのか……生命力で探すって、凄い効果がありそうだな》

 歩きながら、『SEBAS』と話す。
 俺の場合、姿を隠すスキルも一切ないし、逆に堂々としていた方が見つからないような気がしてきた。

 それに、失敗しても困るわけじゃない。
 ついでに言うと、正確に言えばバレてもそれ自体がアウトってわけではないので……方法はあるのだ。

《順調だが……奥に行けば行くほど、何度も声が聞こえるな》

 何度も入り口で聞いた音が鳴り響き、その後に参加者が悲鳴を上げている。
 それも複数の場所で……もちろん、それにも理由があった。

《『告鳥ワーンバード』の分体の性能は、奥の個体ほど優れておりますので。旦那様の現在の隠蔽であろうと、本体をこの状態で欺くことは少々難しいかと》

 教えてもらった通り、この区画の森獣は分身生成系の能力を持っている。
 入り口から近いほどそれは弱体化され、当然ゴール付近は本体が見張っているらしい。

 今現在、俺が居るのはだいたい真ん中。
 そこに居る時点で、まだ見つかっていないのだが……まあ、本物を相手にするならやっぱりそれじゃあ難しいか。

《となると、何を使うのがいいのやら。とりあえず、隠蔽系のポーションをありったけ飲むのは確定にするとして……他か》

 隠れるために、何ができるか考えてみる。
 自分の方をこれまではなんとかしてきたんだが……うん、周囲の方を探せないようにするのもいいかもしれないか。

《けど、もう一捻り欲しいか。簡易だけど、この場でいろいろやってみるか》

 そう伝え、俺は順路から少し外れて森の中へ入っていく。
 さて、これで上手くいくだろうか?


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