虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭後篇 その05


 核が埋め込まれた氷像はいくつもあり、その中から森獣を探さなければならない。
 種類も大きさもバラバラ、同じなのは内部の魔核が放っている身力の波長のみ。

 つまり製作者、というか最後に埋め込まれた核の持ち主は同じということ。
 ……まあ、他の個体がいっしょに氷像を創るとは思えないので当然なんだけど。

「とりあえず、試してみましょう──展開をしてください」

《畏まりました。回復用ドローンを配置、散布を開始します》

「これで分かればいいんですけど……さて、どうなるのやら」

 そう言って、俺自身は周囲の魔力量が計測できるサングラスを装備する。
 ドローンが撒き散らす濃度の高い魔力回復ポーションは、霧のように周囲に広がった。

 可視化された魔力は色として認識され、濃いほど赤から紫へ染まっていく。
 青色の霧が漂い、赤や橙色の氷像に振りかけられ……色が変化する。

 特に、魔核持ちの氷像はどんどん色が深いモノになっていくのだが……それらは一瞬光ると、その色を元のモノへ戻していった。

「だけど一つだけ、より色が染まっていく氷像が有りますね」

 それは猫の氷像。
 他の氷像同様に動物を模し、体内に魔核を有しているので見分けがつかなかったが……保有する魔力量ではっきりする。

 猫の氷像に近づいてみた。
 うん、まったく違いが分からない……色だけは濃密な紫なんだけども。

「あなたが、この地の森獣ですね」

『……そうニャ。どうして分かったニャ?』

「先ほど呟いた通り、魔力の量です。ですがこれ、子供たちは分かるのですか?」

『子供たちの時は、時々ポーズを変えているからニャ。みんな見つけて、とても喜んでくれるニャ』

 なのに大人は決まっているヒントだけ……なんというか、差があるよな。
 まあ、そのヒントを見ていないので、分からないのも仕方ないか。

『お前さんは、仕掛けを何にも使わずにオイラを見つけたニャ。不思議だったけど、魔力の量だったのかニャー。急に増えて壊れそうだったから、回収したのが仇にニャったのかニャー』

「それは……申し訳ありません」

『気にするニャ。次からは、それにも対応できるようにするニャ。それよりも、加護と許可をあげるニャ』

 どうやら寛大な心の持ち主だったようで。
 猫の森獣は体を振るわせると、肉球の形をした印をこちらに送ってきた。

 子供も喜ぶ感じだな……と思いながら、許可と加護が[ステータス]に反映されたのを確認する。

『加護は寒さの耐性が上がるニャ。あと、少しだけ雪や氷で何かを作る時に上手にできるニャ。上手くできたら、ここで飾るニャ。もちろん、何かと交換するニャ』

「ええ、そのときはぜひ」

 本来は子供向けなんだろう。
 だが、俺もいっぱしの生産職として、何か贈るのもいいかもしれないな。


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