虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その18



 さて、偶然俺を見つけて絡んだ【獣王】ではあるが、彼女はすぐに退場した。
 それもそのはず、加護を貰った直後を狙い子供たちが無力化を図ったからだ。

『おい、離せよ! 俺はまだ『生者』に用がある──』

『いいですから、行きましょうお母さま! 『生者』さん、無礼をお詫びします……この続きはまた後日、必ず』

『そうだぞ、今度は本気で──むぐぐっ!』

『はいはい、ママ上様はお静かに。じゃーね『生者』さん、また会おうね♪』

 子沢山で何人もいる王家の子供たちが、どうにか力を合わせて抑え込んでいた。
 その迫力に、俺は肯定をしておくことしかできなかったよ。

「ショウやマイ、ルリにも参加してほしかったけど……忙しいみたいだしなー」

 こちらの世界を股に掛け、エンジョイしている家族である。
 息子は仲間と共に武者修行、娘はまだ見ぬレアな魔物を従える旅。

 そして妻は、人々を救うために世直しに出ているんだとか。
 その都度、必ずイベントが起きるのは……どこのご隠居様なのだろうか?

「あっちはフィクションだけど、こっちは本当だしな。さすがは幸運の女神さまだ」

 祝福も貰っているので、こういうときはやはり祈った方がいいのだろうか。
 正式な祈り方は聞いていないので、とりあえず手を合わせて拝んでおく。 

「……何か聞こえてくるってことも無いか。神殿だと、意外と繋がるらしいし」

 初期地点の街にある神殿は、ルリの休人名であるアズルを崇めている。
 自分を信仰している場所だと、より深い繋がりがあるため交信ができるらしい。

 感覚的にはノイズの激しい[ウィスパー]なんだとか。
 ルリを不快にさせないためにも、改善できる魔道具を作ってみるべきだろうか?

「……それにしても、とりあえず五つ許可を貰えたんだよな」

 北東、東、南東、北西、西。
 それぞれの区画で森獣と出会い、許可……そして加護を貰うことができた。

 ちなみに先ほど貰った加護は、一対一で闘うときに火力に補正が出るものだった。
 基本的に強者関係での戦闘は、そうなることが多いので助かる加護だな。

 そんな加護と共に得た許可は、五つ集めることで中央区へ向かうことができる。
 すでに原人の人々の中にも、同様に条件を満たして向かった者が居るらしい。

「中央区で何をやっているのかは、あの三人組も分からなかったんだよな。入ってからのお楽しみ、みたいな感じだし」

 他の区画を巡ってみるでもいいが、それだと最終的に鹿の森獣に会わないといけない。
 それを回避するための道順だったのだ、今さらそれは無いだろう……。

「となると、結局中央区に行くのが一番良さそうだな。とりあえず、今日の祭りもそろそろ終わりそうだし……下見だけしてみるか」

 そんなわけで、次に目指すのはこの森の中央区画……通常時はどんな感じだろうか?


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