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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その16



 そこからの戦闘はひどく長く続いた。
 これまでの戦いが割と早く終わっていたからこそ、そう感じてしまうのかもしれないけども。

 彼女の『ビーストオーブ』が、宿すことのできる性質はまだ一つだった。
 なので魔物の性質を変更できず、それからは【獣王】の能力の方を利用している。

 吹雪を生み出す狼、そしてあらゆる獣人の性質の組み合わせ。
 もしこの場に『覇獸』が居れば、更なる可能性が増えていたわけだ……恐ろしや。

「まあそうであろうとも、今のこの状況が解決できるわけではありませんが」

「どうしたどうした、いつまで続けるんだよこれをなぁ!」

「もうしばらくお待ちください」

 雪に潜み、俺の感知を潜り抜けて攻撃を仕掛けてくる【獣王】。
 その都度、性質を切り替えることで動きを読めないようにしていた。

 だがそれでも、少しずつ解析していくことでパターン化されつつある。
 予め集めた獣人たちの性質と動き、それらが今回の闘いに生きていた。

 体術を極めた『バトルラーニング』、そしてあらゆる形状に成り得る『千変宝珠』。
 最初は翻弄され、結界が防いでいただけだが……だんだんと反撃に成功しだす。

「おっ? だいぶ盛り上がってきたな──なら、これはどうだ?」

「っ……!? 急に、動きが……」

「おらおら、もう終わりか!」

 が、それらはすぐに対策をされてしまう。
 さすがは力こそすべてな獣人たちの国、その王を務める最強の獣人だ。

 ただ速度が上がったのではなく、動きに変化が生じていた。
 右からと思ったら左、攻撃が来ると思ったらそのタイミングで溜めて一瞬空けて攻撃。

 これまで解析していたことが無駄になったと思うほど、反撃が通用しなくなる。
 どういうことなのか、理解がいかない……だがそれでも、ギリギリで防御をしていく。

 攻撃の変更ができなくなるタイミングで、防御に移行しているからだ。
 死亡レーダーの精度を上げ、最後に当たる部分を読み取るからこそできること。

 時間だけはあるので、ゆっくりと考える。
 やがて、それらしいことを思い付いて……試してみることに。

「──『神持祈祷:カラフルペイント』」

「今度は何を……っ!」

「“レッドペイント”」

 絵画で使うパレットのような物が現れ、そこから赤色を取りだす。
 何もない場所に、これまた用意された筆を握って一線を引くと──そこが発火する。

 すると、突然【獣王】は動きを止めた。
 まるで予定が狂ったかのように、考えを練り直すかのように……。

「蛇、でしょうか? 柔軟な肉体を使い、動きを変えた。ピット機関を用いて熱源感知を使用していたからこそ、今の動きで躊躇ってしまった……そう考えておきます」

「へっ、ならそれがどうした?」

「それを踏まえて戦います……行きますよ」

 こちらも『バトルラーニング』に、蛇獣人たちの動きをプログラム。
 完全ではないが、対応の仕方を優先的に選ぶようにして……反撃開始だ。


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