虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭中篇 その15
「じゃあ行くぜ──『ビーストオーブ』!」
宝珠型の『プログレス』が光り輝く。
秘めた獣の力を呼び覚まし、擬似的にその獣の性質を有した獣人になることができるこの能力。
元よりすべての獣人の性質を使うことができる【獣王】にとって、それは重ね掛けによる組み合わせにしか使えないはずのもの。
だが──
「来い──『吹雪狼』!」
本来聞くはずのない魔物の名前を告げ、眩く輝いた宝珠の光に包まれる。
一瞬の内に終わった変化、【獣王】である彼女の体が真っ白に染め上げられていた。
「……これはこれは、驚きですよ」
「なんか、もうネタがバレてそうだな。まあバレていても、別に困るわけじゃないからいいけど──なっと!」
「旦那さんの、『覇獸』さんの、お力を、借り、ましたね!」
「そうそう、それが正解」
俺たちの周囲のみが、突如として吹雪く。
冷たいそれは目の前の彼女が、魔物の能力によって生み出したものだ。
その雪に紛れ、こちらの隙を突いては連続攻撃を仕掛けてくる。
……まだこういう環境での戦闘は、データ不足なんだよな。
本来、【獣王】は獣人の性質をすべて使うことができる。
しかしそれは通常種のみ、基本的に動物である『獣』の性質の再現だ。
だが『ビーストオーブ』にそういった制限は存在せず、その再現対象があればいい。
そして、彼女の夫である『覇獸』の権能は魔物の能力再現……つまりそういうことだ。
「バレても何も変わらない。本当、『生者』は面白い物をくれたよな!」
「夫婦の共同作業にご協力できましたこと、大変光栄に思います」
「~~~バッ! と、ともかく、俺も全力で行くんだから、そっちも全力で来い!」
「そうですね……では、もう一段階ギアを引き上げましょう──『千変宝珠』」
使ったのは魔術。
魔力で固めた球体を生成し、それを必要に応じて好きなように変形させることができるという術式だ。
起動中の『バトルラーニング』に、それを使うようプログラムを追加。
どうやら急いで使いたかったようで、仕様変更と同時に宝珠を使う俺の体。
魔力を籠め、変形させたのは──大盾。
正面にどっしりと構えると、それとほぼ同時に激しい衝撃が体を揺さぶる。
「おっ? いつの間にそんな物を……やっぱり油断ならねぇな」
「行商人ですので。必要な物はしっかりと取り揃えておりますよ」
「休人の[ストレージ]じゃねぇだろ。さっきのアレ……『宝珠』ってヤツの正体がそれなんだろう? なるほどな、こっちのオーブみたいな凄いヤツだろ」
「……さて、どうでしょうか?」
この魔術、俺が『騎士王』に創ってもらった完全オリジナルなので知られずとも当然。
そして、今は未知に溢れた『プログレス』があるのでそちらに目が行ってしまう。
何より、無数の形状に変形する……なんて能力も実際にあるからな。
魔術なので強度は『プログレス』に劣るものの、使いようはいくらでもあるさ。
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