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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その14



 拳が物凄い速度で飛んでくる。
 高い身体能力を有する彼らの一撃は、弾丸と同レベルの速さになっていた。

 だが、俺の体はそれをあっさりと躱す。
 最小の動き、少しでも当たっていれば死んでいたであろう拳撃を、寸でのところで通過させて逆に自身の拳を打ち込む。

 本来であれば、虚弱な俺の攻撃なんていっさい通用しないだろう。
 しかし、解析された情報が狙ったその箇所は、人体において点欠と呼ばれる部分。

 そこへ『貧弱な武力』や『闘匠』の効果もあり、必ずダメージが通る。
 その結果、相手は体内の流れが狂い──制御できないまま、地に伏せることになった。

「では、次の方どうぞ」

 聖獣様の力で相手は自動的に退場なので、誰も居なくなった場所に参加者の誰かが勝手に入ってきて再び戦闘が始まっていく。

 今度の相手は周りをグルグルと走り、隙を突こうとしてきた。
 ……結果は同じ、死の危機感はその動きを読み取り、体に反撃を強要する。

「では、次の方どうぞ」

 今度の相手は、優れた動体視力を用いて射撃を行うタイプだった。
 獣人の膂力で軽々と大弓を引くと、無数の矢を同時に放ってくる。

 ただ、飛んでくる時間がある以上、近接戦よりも速く攻撃軌道の予測ができてしまう。
 避けて近づき、逃げる相手を追い詰め……これまでの相手同様に倒した。

「では、次の方どうぞ」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 だんだんと戦う相手の質は上がるのだが、やはり最上位である神々との戦闘で洗練した『バトルラーニング』には遠く及ばない。

 何度も何度も倒し続け、やがて加護を貰えるほどに勝利するに至った。

「──あの、もう私に戦うつもりは……」

「ここまでやっておいて、今さらそれは無いだろう? せっかくなんだ、俺ともやり合ってくれよ」

「……手合わせで、お願いしますよ」

「はっ? ガチに決まってんだろ」

 ピコピコとうさ耳を揺らし、戦闘準備とばかりにウォーミングアップを行う女性。
 その背後には、申し訳なさそうにする高級な衣装を身に纏う獣人──彼女の子供たち。

 まあ、言わずもがな【獣王】なわけだが。
 彼女は自身の『プログレス』である宝玉型の能力『ビーストオーブ』をその手に浮かべて、とても楽しそうに笑みを浮かべている。

「好いじゃねぇか。俺もテメェも、ここにはやり合いに来たんだ。どうせなら、勝つだけじゃなくて負けも経験していけよ」

「……私は何度も死んでいますよ?」

「そのうえで負けろよ。安心しろ、後腐れが無いくらい完膚なきまでに倒してやる」

「……それはごめん被りますね。父として、夫として。今日もどこかで活躍する子供たちには、強くある姿を見せたいので」

 華々しく散るのは、どうせなら子供たちが観ている前で。
 ……普通は逆なんだけど、子供たちとルリなら喜びそうだしな。

 というわけで、負けるわけにはいかない。
 今回もあの手この手を使って、どうにか勝たせていただこう。


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