虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その10


 しばらくして、現れたのは三人の獣人──そして一匹の虎。
 先ほどまで相対していた狼と違い、その目は知恵を持つ者特有の輝きを秘めている。

「おや、皆さんお早いお帰りで」

「おっさん! あの魔獣は!?」

「お、おっさ……いえ、何でもありません。あの魔獣でしたら、平和的にお帰り願いしましたら、なんとかこちらの意見を尊重してくださいましたよ」

『──おうおう、出番が無かったじゃん!』

 俺と彼らの会話に入ってくるのは、当然残された一人……というか一匹。
 目は理知的だったが、なんというか口調は粗暴だなぁと思える念話だった。

『というかこのおっさん……ああ、なるほど例の。お前ら、よく連絡してくれたな』

「は、はい。あの、おっさん……じゃなくてあの人はいったい」

『知らねぇのか? ありゃあ『生者』っていう『超越者』でな。行くとこ来るとこ、必ず何かやらかすことで有名な男だぞ』

「『超越者』!? ということは、『覇獸』様と同格なんですか!?」

 俺がなんだかとんでもないヤツ扱いされていること、それに国のトップと並び立つ力の持ち主みたいに言われるのは……なんというか違和感が半端ないな。

 しかしまあやらかすとは、いったいどこ出の情報なんでですかね?

「申し遅れました。改めまして、『生者』と申します。大した力はございませんので、皆さんの目は間違っていませんよ?」

『そうやって甘く見た奴は容赦なく敗北するらしいぞ。ああ、ちなみにこれ、森獣の間だと常識だからな』

「……ああ、あの方ですか。いずれご挨拶に向かうと、お伝えください」

 俺とある程度関係を結んでいて、かつ俺のやっていることを知っている森獣。
 第一候補は風兎だが、彼は俺の世界に居るのでそれは不可能。

 だが一人……というか一匹、彼と連絡を取り合える森獣がいる。
 獣というより、虫のはずだが……まあ、いずれにせよ挨拶に行かないとな。

『で、わざわざここに残ったってことは……そういう気があるってことでいいのか?』

「ええ。確認ですが、貴方様に認められれば許可は得られますか?」

『おうとも! ついでに勝てば、加護もくれてやるさ!』

「ご期待には沿いかねますが、全力は尽くしましょう」

 虎の森獣は体から刃を伸ばし、ニヤリと笑う(ように見えた)。
 俺はそれに対抗して、『プログレス』を使い無数の刃を地面から生やす。

「始めましょう──『サウザンドエッジ』、“セットウェポン:デッドタナトス”!」

『はっ、なんでもかかってこいや!』

 そんなこんなで、俺たちは三人の観客の前に戦いを始める。
 それを忘れないよう、意識して戦わないとな……最悪退場しちゃうし。


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