虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭中篇 その09
森を歩いて魔核個体を見つけ、それが森獣ならアタリだ。
勝負して認められ、なんやかんやで許可が貰えればよかった。
「……あー、たぶん違うなこれ」
『GURRRRR……』
涎ダラダラ、爛々とした目を真っ赤に染め上げた狼型の魔物。
だが、たしかに魔核レーダーが示している個体だった。
「知性が欠けてるな、あれは。あまりにやりすぎだ──しばらくしたら退場だな、彼ら」
そんな狼と相対する三人組。
前衛として剣士が戦い、後衛で魔法使いが詠唱中、その間で弓士が的確に隙と時間を生み出していた。
とはいえ、獣人たちの攻撃にも怯まず狼は猛攻を仕掛け続けている。
やがて魔法使いが詠唱を終えて、思いっきり爆発を……って、不味いな!
「──『溺死の水泡』!」
久しぶりの『死天』謹製アイテム。
本来なら相手を包み、そのまま溺死させるためのものだが……今回はその水を使ってやらなければならないことがある。
ある程度自分の意思で操れる泡沫を、爆発の飛び火で発火した植物に当てていく。
魔力の火も、死の概念を帯びた水の力には敵わず、瞬時に鎮火していった。
「ふぅ、危なかった……あっ」
「「「…………」」」
「……じゃ、そういうことで」
「「「待って(ちなさい)!」」」
さすがに目立ち過ぎたようなので逃げようとしたが、やはり止められてしまった。
仕方なく、渋々といった表情を浮かべて彼らの方へ向かう。
「とりあえず、お助けしましょうか?」
「「「お願いします!」」」
「そうですか。では──行きますよ」
今の俺は『バトルラーニング』の力もあるので、見た感じは武人っぽく戦える。
それでも無駄に爆弾特攻をしていたのは、真面目に戦うと死んでしまうから。
だがまあ、今は非常事態だ。
どうせ死ぬならバカみたいな死に方がいいからとやっていたことだし、彼らを逃がすためなら真面目に戦ってもいいだろう。
「今の内に逃げておいてください」
「えっ、でも……」
「いいから! 死の直前で戻されるといっても、痛いものは痛いですからね」
適当にそう伝えると、彼らは助けを呼びますとかなんとか言って走り去った。
いや、邪魔だから追い出しただけだから呼ばなくても……いや、好都合か?
「なんとなく、この後の展開もテンプレならアレだしな。まあ、ともあれ速く倒しておこうか──『喰獣の剣』」
獣による捕食が持つ死の概念の具現体。
牙状だったそれを改悪し、劣化させて剣として扱えるレベルまで抑え込んだこの武器。
それを向けるだけで、狼は察した。
自分がとんでもない相手を敵にしたと……誤認しただろう。
「今なら何もしません、行きなさい」
『GURRRR……GAU!』
腐っても魔核個体、目の色を赤から黒に戻す(?)と、森の奥へ帰っていった。
まあ、切れたから暴れていただけで、誤解が解ければこうなるわけだ。
……さて、あとは彼らを待つだけだな。
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