虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その05



 森亀の背中にどうにか登り、刺激することで起こすという作戦だったのだが……。

「いやー、全然起きなかったな……うん、仕方がないな。たとえ素材が全部取りたかったからやったわけじゃないし、刺激したかったからだし。うん、大量だけど仕方がない」

 自分でも正直に何を言っているのか分からなくなっているけども、少なくとも状況は全然変わっていない……[ストレージ]に植物系のアイテムが増えたぐらいだな。

 現実ではどうなっているかさっぱりだが、とりあえず素材は採取できるようだ。
 その証明ができたのだから、それでいいだろう……過去のことは全部忘れよう。

「うん、テイク2だな──『インストール:カースドアーマー』」

 そう、事前に使用したアイテム──つまり『プログレス』を入力する媒介である装置ならば、今なお使うことができるのだ。

 千苦の『プログレス』でもある能力を、宝石経由で起動する。
 個人差で形状が変化しているのだが、今回は無難に鎧を選択した。

「──“デバッグデバフ”」

 発現者は多種多様な状態異常を経験していたことから、その中からより最適なものを抽出できるようにしたかったらしい。

 なので初期よりも攻撃性を増した、自分自身も傷つける可能性がある能力となった。
 そしてその恩恵は、似たように死にまくった俺にも存在する。

「選ぶのは──『幻痛』と『不眠』」

 ゆっくりと呪いが森亀を蝕んでいく。
 能力値的な格差や耐性スキルがそれを拒むものの、相手は無抵抗な状態……時間が掛かれば掛かるほど、その影響は強まる。

『──イッターーーーイっ!』

 やがて、足元が激しく揺れて俺は甲羅から振り下ろされた。
 その衝撃で俺自身は死を迎え、ついでに夢の世界から排除される。

 潜り込んでいた身なので、世界が崩壊すればそれはそれで死ぬのだ。
 ちなみに死因は精神崩壊……グチャグチャにされているらしい。

  ◆   □   ◆   □   ◆

『うーん……夢見が悪いよー』

 のそりのそり、おそらく森獣自身からすればそんな感覚で動き出す。
 だがそれ以外の者たちからすれば、大地震かと思うほどの揺れに襲われる。

 俺が干渉したことで不快感を覚えたのか、森亀はようやく意識を現実へ向けた。
 埋めていた体をゆっくりと起き上がらせ、周囲の様子を窺う。

『なんだか獣人ちゃんたちの数が多い気がするけどー……なんでだろー?』

「それは現在、聖獣祭が開かれているからですよ。私たちも招かれ、ここに来ています」

『なるほどー、そういうことなんだー。えーと、君は誰かなー?』

「これはこれは、申し遅れました。私の名は『生者』、この地には貴方様の許可を得るための試練を受けに来ました」

 とりあえず無難な挨拶をしておく。
 夢で叩き起こしたと知られたら、どうなるか分からないし……最悪、全力バトルとかになるかもしれないので、気を付けないとな。


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