虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その04



 夢の中、というものなんだろうか?
 能力があることは分かっていても、やはり使ってみたことはないので初体験だ。

「夢とはいえ、『プログレス』を基に夢を擬似的に活動可能な場所にしている……みたいな感じだからな。ちゃんと一部のステータスは反映されているのか」

 要するに、夢という異なる世界に可能な限り干渉して都合よく改ざんしている。
 相手にとっても都合がいいなら、それは当然採用されてこちらでも使えるわけだ。

 とはいえ、世界の決定権は夢の主にあるのですべてではない。
 何より、その維持もシステムでの判定に掛けられる……ここがポイント。

「都合よく、レベル判定だったから俺が負ける相手が今のところいないんだよな。だからこそ、これを選んだってのもあるけど」

 相手より強ければ、より都合よくシステムの組み込みができる。
 夢に入る前の前提条件さえクリアしていれば、割と融通の利く能力だったのだ。

「──さて、そろそろ現実と向き合うか……デカいなー、この森獣」

 すでに3Dの[マップ]で把握していたとはいえ、地中に埋まっていたからな。
 全長は分かっていても、実際に見ていたわけではなかったので実感が今さら湧いた。

「……けどまあ、たしかにファンタジーとかだと定番なんだよな──背中に植物が生えた亀とかって」

 種族名は『森亀フォレストタートル』……テンプレだな。
 驚くのは語った通り全長、5mなのだがそれはあくまでも森亀自身の大きさなわけで。

 背中の甲羅から生えた大樹は、さらにそれと同じほどの大きさである。
 実際、南東区画の中央にある大樹ということで、てっきりシンボルだと思ったほどだ。

『Zzz……』

 そんな巨大な亀が、夢の世界でもなお眠りについている。
 どうすれば起きるのか、そして起こそうとしたらどうなるのか……考えていた。

「まあ、考えていても仕方が無いけどさ。こうなったら無理やり起こそう……死んでもここなら被害も出ないし」

 とはいえ、夢の主を攻撃するとこの世界がどうなるか微妙なので。
 可能な限り、穏便な方法で起こさなければならない。

「この世界で使えるのは、自分の体だけみたいだから、やることはそうだな……背中で暴れていればそのうち気づくか」

 アイテムがいっさい使用できず、事前に使用した『ドリームピロー』以外が使えないという縛り……成功したはずだが、やはり虚弱スペックなのが原因だろうか?

 それでもどうにか森亀の体に、尻尾から甲羅になんとか登る。
 その時点で数十分も掛かったが、夢の世界はさらに時間の流れが速いので問題ない。

「まずはいろいろ引き抜いてみよう……これは触覚を刺激するためであって、別に素材採取のためじゃないからな。うん、そもそも採取できるか分からないけど」

 検証もやっておきたいし、これは最善の手段なのだ。
 なんてことを考えたのち、俺は森亀を起こすために奮闘するのだった。


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