虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その19



 究極的な話、わざわざヘイト値を擦り付けずとも俺は侵入できた。
 それをしたのは、蜂たちに掴まれて強制排出されないため。

 あとは単純に、“神持祈祷”をより使いこなせるようにするためである。
 使用回数が条件で解放される職業もあるので、やっておいて損は無い。

 蜂の巣に着いた俺だが、当然ヘイト値をおもちゃに押し付けてもすべての蜂がそちらに向かったわけではない……まあつまり、そういうことだ。

《さて、どうしたものか……》

 改めて説明しよう。
 蜂の大きさはスズメバチサイズだが、ミツバチの性質を持っている──彼らが取る防衛の最終手段、それこそが熱殺蜂球である。

 最初は普通に攻撃されていたけども、死なずに踏み止まっていたら警戒されたようだ。
 それからはずっと、彼らが俺の周りを包み込んで熱を送り続けている。

《俺は結界の中だから、そういう意識でやり切れるけど……他の奴らがこれを喰らったらヤバいんだろうな》

 大半のヤツは、血などの忌避するモノにモザイクが掛かるので平気だろう。
 前に経験したが、イメージ的には生き物がダメならそれがぬいぐるみになるはず。

 だがそうじゃないヤツは、うじゃうじゃと虫が集まる姿を見ているわけだし。
 R18レベルで、見てはいけないものになるだろうな。

《──まあ、そろそろ行くとしよう》

 周囲に集まって動きを止めている蜂なのだが、俺が意識して動けばそれを止めることはできない──体が一瞬透けて、物理的な干渉ができなくなるからだ。

 死に戻りとは肉体の再構築を意味する。
 失われた部分を補うのではなく、一度すべてを解いたうえで、用意された設計図を基に改めて作り直しているのだ。

 そして、融合みたいな現象を避けるため、再構築の間は物理的な干渉ができなくなる。
 休人は死ねば、その現象で肉体をセーブ地点に転移されてるのだが……俺は違う。

《“神持祈祷:ハニーハント”、もうこれで充分か》

 能力を切り替えたことで、なんだか蜂の密度が増した気もするが……大して気にならないので、そのまま蜂蜜回収を続行。

《回収はこれだな──“ハニーキャッチ”》

 手で触れるだけで、簡単に蜂蜜を集められるという蜂蜜特化の採取能力。
 今の俺は【生産勇者】に就いているので、そちらの生産補正も機能している。

 器用さが高ければ高いほど、作業効率が良くなる採取……俺みたいなほぼ極振りがやれば、異常なほど手早く蜂蜜を集めることができたわけだ。

《『SEBAS』、これでもう大丈夫だと思うか?》

《そうですね。旦那様、間もなく一日目が終了となります。最後に蜂蜜を提供しに向かいましょう》

《もうそんな時間か……なら、急いでいった方がいいか》

 こんなこともあろうかと、事前にセーブ石は森獣の像がある釣り場にも置いてある。
 死亡時の設定を切り替え、俺は蒸された末に殺され──この場から姿を消すのだった。


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