虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その18



 泉の中へドボンッ。
 呼吸に関しては、もう気にせずアイテム頼りでなんとかしている。

 空気を口の中に直接転送する、なんて技術の無駄遣いアイテムを実は作っていた。
 それを使って平然と息をして、すでに何度も泉の底まで行っている。

 ……ああそうさ、これでもう三度目だよ!

 なんというか、俺は運の強さも0なので当たり前というか……そうさ、仕方がない。
 ともあれ、そんなこんなですでに経験も豊富なのである。

《けど、今回はアタリだな。これまでは普通に魚が生息したり、魔物が居たけども……今回は水の中に花が咲いているし、なぜかその奥に更なる道が続いているし》

 今までのハズレっぷりが、逆にどうしてと思うほどの幻想さ。
 そして、目的の狙いである蜂がこの水中で生息しているのだ。

「名前は『水飴蜂マルトースビー』か。水飴……いやまあ、たしかに甘い物ではあるけども」

 水中に咲く花から蜜を集めて、水中洞窟の先にある巣で蜜を加工しているのだろう。
 ゆっくりと泉の底へ落ちているのだが、未だに蜂は警戒してこない。

 それは【養蜂士】の能力によって、若干のヘイト値緩和が行われているから。
 残念ながら『ハニーハント』には備わっていないが、重ねれば便利である。

 とはいえ、結局は戦闘に入るわけだけど。
 育てる側の間ならまだしも、俺は完全に略奪者なわけだし……さて、いったいどうやって奪えばいいのやら。

「あくまでも『ハニーハント』は、熊獣人の強硬っぷりを模しているからな。百歩譲っても、蜂への攻撃に補正が入ったりしているぐらいだし……」

 今まで通りの方法は、またしても通用しなくなってしまった。
 蜂に対するやり方って、残念ながら水中だと全然効果が無いからな……。

 水の底に着地しても、彼らは遠巻きに確認してくるだけで何もしてこない。
 俺という雑魚を相手にするより、蜜集めを優先しているのだろう。

「まあでも、場所さえ分かれば行けるか──“神持祈祷:ドミネイトテリトリー”」

 直接祈り、必要とする『プログレス』の能力を指定する。
 知人の能力であるそれを、勝手に借り受けてこの場で行使した。

 能力はシンプル、一定領域内を自分の思うが儘に操れるというもの。
 ただし、初期状態ではそこまで万能ではなく、それなりに制限が生じている。

「せいぜい初期だと、自分の能力を相剋無視で最優先させるぐらいだけど……今はそれでも充分だよ」

 持ち主はこれに自身の職業能力を加え、命令への従属度を上げている。
 俺も似たようなことをしようと思う……さすがに命令はできないけど。

「【養蜂士】のヘイト値下げ、それに加えて【隠者】でヘイトの擦り付けを……こっちのアイテムにやらせるっと」

 取りだしたのはおもちゃ。
 大量に【生産勇者】用に作り上げたそれを並べ、次々と発進させる。

 それを追いかけていく蜂を観て、本当に俺は危険視させてないんだな……と少し涙を流しながら、俺は巣へと近づくのだった。


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