虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その17



 泉か穴、そのどちらかに蜂の巣がある。
 そんな可能性が出てきたので、その両方に行くことになった。

「とりあえず、先に穴だな。水の中だとさっきまでの変更が無駄になりそうだし」

 森の中を巡っていたので、不自然な穴がいくつかあるのは確認済み。
 それらを[マップ]で確認しつつ、一つひとつ虱潰しに探していく。

「簡単には探せないけど。穴の底まで行って反応が無いか、全部でやらないとなー」

 とはいえ、やることはいたってシンプル。
 穴の中に入り、切りのいい辺りで自殺すればいいだけ。

 生存チート『生者』の権能は、あくまで休人の死に戻りを活用するというもの。
 座標を死んだその場にすることで、即座に蘇えることができるのだ。

 なのでその部分、つまり座標を弄っておけば自由にどこでも死に戻り可能になる。
 ……といけばよかったのだが、世の中それほど都合よくはいかない。

「書き換え可能なのは、『セーブ石』が配置されている座標だけ。こうして簡易セーブ石が無いと、俺が移動できるのは現地とそれなりの大きさがある街だけになるわけだ」

 まあ、それについてはさておき、俺はただ歩いているだけでマッピングは進んでいく。
 穴に落ちたり潜ったり、いろんな場所を探りに探ったが……蜂は見つからなかった。

「──ということは、泉だったわけだ」

 それが分かるまでのトライ&エラーは実に十回を超え、普通なら諦めるところだ。
 デスペナもひどくなっているだろうし、レベルダウンなどもあるかもしれない。

 だが俺は未だにデスペナ無しの保護状態なので、それを気にしなくても平気だ。
 スキルレベルの合計なはずだが……俺って本当、全然持ってないことになってるし。

「泉なら、やっぱり称号はまた変えておかないといけないか……【狩人】と【追走者】は【潜水士】と【海士】にしよう」

 前者は先ほどと同じヤツ、後者は海女の男バージョンと言われている職業だ。
 ちなみにEHOの職業システム、男と女で微妙に能力が違う場合があるんだぞ。

「泉の数は三つ、どうせなら一発で見つけたいな。もしかしたら、全部に巣がある可能性もあるし」

 可能性は無限大、シュレディンガー猫のように確認しない限りは期待を抱ける。
 改めて場所を確認しながら、さっそくそこに向かうのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──まあ、ある意味分かっていたことだ。

「さて、泉に行くとしますか」

 俺は[マップ]を確認しながら、泉のある場所を目指して歩く。
 ……その地図には、二つほどバツ印が付いてはいるけども。


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