虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
聖獣祭前篇 その16
さて、女神プログレスの恩恵を使い、擬似的に発動させたとある『プログレス』。
それはある物を強く欲した獣人が、その想いから生みだした能力。
「“神持祈祷”──『ハニーハント』」
いかにも、こんな時に使うことが相応しい能力を見つけていた。
効果は幅広く、蜂蜜を探すだけでなくその過程で必要な能力なども備わっている。
その代わりに、初期段階では器用貧乏な性能となっていた。
今はきっと、それなりに成長させたのだろうが……俺が使えるのはそんな初期のみ。
「さて、まずは──“ハニーソナー”」
お察しだとは思うが、これを発現させたのは元より蜂蜜探しの上手な熊獣人。
あくまで彼らの種族性質を補助するための能力では、さほど使い物にはならない。
それでも使うのは、それ以外で補うことができるから。
補うための能力を、さらに補うって……考えてみると、おかしな話である。
「職業は水系の職業を【養蜂士】と【狩人】と【追走者】にして、称号も虫関係のモノにすれば……さて、行きますか」
まずは当てもなく森の中を歩くだけ。
蜂、もしくは巣の中にある蜂蜜を見つけることのできる“ハニーソナー”は、近くにそれらがあれば自動的に反応してくれる。
なので歩いていれば、いずれどちらかの反応が見つかるだろう。
そう思って探したが……『SEBAS』の予測通り、森の内部で全然反応は無かった。
森の全域というほどでもないが、少なくとも中流区画のすべてを一度は探知可能域に収めている……それでも見つからないということは、やはり仕掛けがあるのだろう。
「となると、残りは隠された地形だが……不自然な箇所がいくつかあったっけ?」
《岩、川、泉、洞、空、穴。いくつかございますが?》
「……その言い方、その中に確実な答えがあるわけだ」
《さて、どうでしょうか》
うん、この反応は間違いなかろう。
俺の補助はしない『SEBAS』だが、必要な情報に関しては可能な限り状況に合わせて集めてくれているようだ。
「上……は無いな。森獣が熊な以上、あの木彫りの形状的に空は飛べない。洞も木なんだから無かったということは無い」
情報を整理整頓していく。
祭りの間、明確な敵意を向けてくる魔物はいないので誰にも邪魔はされない。
「岩と川は微妙だな。いちおう通っているわけだし、あるならあるかもしれないが……どう探すのか分からない。となると、残るのは泉と穴。これなら見つからなかった理由も、とりあえず分かるからな」
つまり、探せていなかったのだ。
水底だか地底だか分からないが、どちらも探知域に入っていなかった……なるほど、これならつじつまも合うな。
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