虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

竜の里 その11

 グローブを嵌め、気分は拳闘士。
 相対する『龍王』さんの見た目は年寄りの爺様だが、それでも容赦なく拳を振るう。

 なぜなら、それをしても大したダメージにもならないこと……何より、結界で攻撃の大半が無効化されることを分かっているから。

「ふむ、あれほど強化を施して、その程度のものじゃったか」

「いえいえ、まだまだですよ──『拳王』、そして“精辰星意”」

 あらゆる戦闘経験を『バトルラーニング』は学習しているが、膨大過ぎるがゆえに処理に若干のラグが出てしまう場合もある。

 なので戦闘スタイルを指定して、それに関する動きのみに必要な情報を絞っていた。
 ついでに“精辰星意”で相手の方を遅くして、多少戦いやすくすることも忘れない。

「今の私なら──この通り」

 現在、【魔王】の権能を擬似的に再現して『拳王』の権能を発動している。
 それは物理貫通、そして連続攻撃を重ねれば重ねるほど威力が向上するというもの。

 お陰で結界を破壊し、その拳を『龍王』へ届け……ることはできなかった。
 結界は一枚に限らず、何枚でも何十枚でも構築できるものだからな。

「そろそろ、よいかな?」

「……もう少し、受けていてもよろしいのではないでしょうか?」

「いやいや、年寄りは我慢というものができなくなってのう──『■■、■■■』」

「! ……お年寄りは、時間にルーズになると思っていたのですがね」

 俺自身は認識することのできない、竜言語によるナニカ。
 竜魔法としてではなく、事象を塗りつぶすことのできる竜の言葉として告げられた。

 すると、突然地面が崩落して俺の居る場所が失われる。
 とっさに結界を構築、それを足場にどうにか回避した。

《解析完了──『地よ、砕けろ』ですね。以降は、旦那様が認識できるようにこちらで音声を調整します》

「頼む」

 携帯電話から聞こえる音は、本人の声ではなくそれに近いサンプルの声なんだとか。
 その応用で、『SEBAS』が認識できない『龍王』さんの竜言語を伝えてくれる。

「ならば行くぞ、『樹よ、縛れ』」

「砕くのみ!」

 頑丈な木を使っているようだが、それでも今の俺なら壊すことができる。
 絶対に破壊できるキーシには劣るものの、他のモノで補って再現してみた。

 木を壊せば壊すほど、グローブの性能はさらに向上する。
 俺の肉体という制限を超えて体が動き、連撃によってさらに威力は補正されていく。

「これ、で──砕ける!」

 そうして連撃を重ねる。
 初期から愛用する称号『貧弱な武力』は確実なダメージをもたらし、その積み重ねにより結界の耐久度を──打ち破った。


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