虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

竜の里 その10


 死屍累々、ぐったりと動かなくなった大人の竜族たちが地面に倒れ伏している。
 彼らは孫娘が早急な治療を施したので、しばらくすれば動けるようになるはずだ。

 ──そう、俺と『龍王』が戦う間には。

「最後は儂じゃ。儂を倒し終えたら、お主の望むようにやればよい」

「……なぜ、でしょうか?」

「疑問など不要じゃろう。本気で戦うことのできる相手がいて、力をぶつけることができる。ならばすべきことは、ただ一つ」

「──『ブレイブソウル』、“オーバーブレイブ”」

 愛しき息子の『プログレス』を借りて、その覚悟を証明する。
 一定時間経てば死ぬ、代わりに能力値を通常の補正値よりも飛躍的に高められる能力。

 本来の能力は、敵対する集団と各能力値を比較して負けた分だけ倍率を上げられる。
 もちろん、相手が『超越者』な竜なのですべての能力値において俺は負けていた。

 そのため、倍率は七倍。
 そこに“オーバーブレイブ”の効果で十倍されるため──七十倍である。

 とはいえ、1以下の能力値を強化してもさして変わらない。
 なので、他の『プログレス』も使ってさらに強化を施す。

「まずは『スピードスター』、“フルドライブ”。次に『ブレイクグローブ』、『メタルスケルトン』、“アイアンスキン”。そして『デッドタナトス』を『サウザンドエッジ』と“セットウェポン”で設置」

 速度が百倍になる靴、手には物を壊せば身体強化ができるグローブ、体自体を金属の骨格と皮膚に換装し、俺と『龍王』の周囲に死神の鎌を並べて場を整える。

 対する『龍王』は、人型に竜としてのパーツがくっついていた。
 背中には翼、腰から尻尾、手からは鋭い爪だし目が爬虫類のソレになっている。

 何より、少々漏れている息から火が噴き出していた。
 竜人、竜の力と人の器用さを同時に兼ね揃えられる状態だ。

「……ふむ、それで準備はよいのか?」

「ええ、残りは必要に応じてやらせていただきます」

「ならば、儂もそうしようか。じゃが、まずは──“■■■■ドラゴンロア”」

 大気を震わせる叫び声。
 人の言語では認識できない、竜言語と呼ばれる言葉で告げられたそれは、物理的な干渉力を以って衝撃波を生み出す。

 せっかく設置した『サウザンドエッジ』がすべて破壊され、その破片が舞い散る。
 そして俺は──それでも直立不動でそれを見ていた。

 まあ当然、俺は死んでいるけども。
 そして“オーバーブレイブ”のツケがチャラになる……なんて裏技を発揮しながら、ただ声が収まるのを待つ。

「……ふぅ。これは竜族が本気で戦うという合図じゃ。すまんかったのう、突然叫んで」

「いえ、そういうことでしたら」

「……何をする気じゃ?」

「そういうことでしたら、こちらもしておくべきでしょう──『竜乃咆哮ドラゴンロア』」

 竜言語はすでに学習済み。
 それを『SEBAS』が解析して、俺でも擬似的に竜魔法を使えるようにしてもらってあった。

 自分の声でまた死にながら、それでも叫び続けて宣誓を届ける。
 それを聞いた『龍王』は……好々爺のような笑みを浮かべた。

「やるではないか……ならば、こちらも全力でやらざるを得んな」

「ええ、ぜひとも。どうせやるのであれば、こちらも全力で行きます」

 グローブを構え、『龍王』に向けて駆け抜ける。
 予め起動していた『バトルラーニング』の補正を受け──勢いよく殴りつけた。


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