虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

竜の里 その03

月末御礼の連続更新です(09/12)
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 結界の上に乗り、竜の里を上空から見下ろしながら移動中。
 それを可能としている『龍王』から、この里の現状を確認しておく。

「では、まだ膠着状態であると?」

「うむ、どちらも動けずにおる。この状況を打開するためにも、お主には期待している」

「そういっていただけるとありがたいです。それに応えられるよう、尽力いたします」

「──間もなく見えてくるじゃろう。ほれ、あそこが神竜様の古巣じゃ」

 なんというか、観ているだけでガンガンと死亡レーダーが反応する場所だった。
 特に何もない、ただの空飛ぶ自然豊かな小島にしか見えない。

 だがそこは、かつて竜の創造者たる神竜が使っていたという寝床。
 それゆえにその残滓が残されており、訪れた竜に莫大な力を与えるそうだ。

「なんとしても、彼の地を守り抜かねばならないのじゃ」

「ええ、私もその気持ちは分かります」

「そうか……お主も持っておったな」

「ですので、今回の件も参加を選びました」

 今回、俺が呼ばれたのはその地をある者たちから守り抜くため。
 目の前にいる『龍王』でも、倒すことのできない難敵がいるからだ。

 ……正しくは、倒せるが倒すことのできない難敵。
 そして、彼以外の者では防ぎきれないだけの脅威が待っている。

「──孫娘を、よろしく頼む」

「はい、この命に代えましても」

 今回の依頼はシンプル──お孫さん率いる子供たちから、あの場所を守ることだ!

  ◆   □   ◆   □   ◆

 外に行きたい子供とそれを留める大人。

 そんなどこにでもありふれた問題が、竜の規模で起きるとこうなる。
 まだ成長著しい子供たちは、世界を渡るための力を神竜に求めた。

 だがその危険性を知っている大人たちは、断固としてそれを拒否。
 説教に次ぐ説教、子供からすれば厳命もただの嫌がらせでしかない。

「──ということですよ。お互いに妥協できる点は無かったのですか?」

「無いな。いくら目に入れても孫娘ならば痛くないと自負している儂でも、これだけは絶対に許すことは無い。これまでの竜、そして次代の竜を守るためにも……これは必要なことなのじゃ」

「なるほど。私たちの世界でも、家訓や家柄で物事を決める家系がありますよ。ただ、彼らは総じて時代錯誤、考え方が古いという意見を浴びておりますが……それは、常識が違うだけのことです」

「そうじゃな。この決まりは儂らにとって当たり前じゃった。そういうものかと思い、不思議に思うことも無かった……じゃが、今は時代が異なるのじゃな」

 大人にも、外部の情報やアイテムを持ち込む者たちがいる。
 今は娯楽が多く、それらが子供たちを刺激したのだろう。

 ──本当に、時代が悪かった問題なのだ。

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