虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

竜の里 その02

月末御礼の連続更新です(08/12)
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 竜の里

 何度も何度もお世話になった、『龍王』の結界による転移……まあ、目的地に運ばれたことは一度も無かったけど。

 それを使って転移した先では、観たことも無い光景が溢れていた。

「──ここが竜の里じゃ。どうじゃ、驚いたじゃろう?」

「ええ、とても……」

 宙に漂う小島だったり、文字通り滝のように流れる雨が視えたりと……いやはや、これまたファンタジーな光景ですね。

「この世界の座標は?」

「ふむ……ここは儂や長老たちが、力を注ぎ生みだした一種の異界じゃ。竜はその存在そのものが恐れられることも多い故、子孫を繋ぐためにもこのような場所が必要なんじゃ。そのため、場所は常に隠匿されておる」

「異界ですか……妖精界や妖界とは、異なる仕組みなのでしょうか?」

 妖精界は話にしか聞いていないが、妖界の方は行ったことがあるからな。
 なんとなく存在しそうな場所と合わせて、違いを訊いてみる。

「そうじゃなあ、妖精界の方は起源が異なるのう。あちらは世界樹の恩恵を受け、最初から存在したと言っても過言ではない。対する妖界は、儂らと同じく力ある物ノ怪たちが生みだしたものじゃ」

「なるほど……ちなみにここは、どの世界にもっとも近いのですか?」

「お主らが冒険世界と呼ぶ、彼の世界じゃ。そも、あらゆる生命は彼の世界から始まっておる。他に渡ろうとも、起源となるのはあの場所になる」

「……なるほど」

 なんだか知るには早すぎた情報まで聞けてしまったが、要はそういうことらしい。
 まあ、俺は普通に行ける他の世界を訪れたことが無いので、知っても意味は無いけど。

「さて、そろそろ観光は良いかな?」

「この地には転移用のゲートなどは無いのですか?」

「一人前の竜であれば、世界を渡ることなど容易いからのう。わざわざ設置はしておらぬよ……必要なのか?」

「そうですね。毎度訪れる際に必要とするのでは、気軽には来れませんので──こちらの転移陣、これをどこかへ置くことを許してはいただけないでしょうか?」

 とりあえず、俺個人しか使えないよう認証式にした、転移座標の術式を広げる。
 一枚のタイルサイズまで縮小したので、置き場所には困らないはずだ。

「ふむ……まあ、構わぬよ。ただし、場所はこちらで選ばせてもらうぞ。自由に置かれて他の者たちに迷惑を掛けては、招待した儂にまで責任が及ぶからのう」

「はい、そちらは構いません。しかし、なぜこの世界の全貌を俯瞰できる場所へ?」

「……その方が面白いじゃろう?」

「そうですね、ここはとても良い場所です」

 まあ、そうは思わない子が居たからこそ、俺はここに呼ばれたわけだが……さてさて、俺は何度死ねば解決できるのだろうか。


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