虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

竜の里 その01

月末御礼の連続更新です(07/12)
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 始まりの街

 いつものように『騎士王』と共に、串焼きとドリンクでまったりする一時。
 ただし今回、それをさえぎる出来事を持ち込む人物が居た。

「──のう、竜の里に来んか?」

「…………なぜ、でしょうか?」

 人物──というか竜物である『龍王』。
 俺も重用している結界の発案者が、今回街に来てそんなことを言い出した。

「最近、『超越者』の間でも交渉役ネゴシエーターとして有名なお主に、儂から一つ頼みがあるのじゃ。どうか、来てはくれんか?」

「わざわざ『騎士王』さんを仲介にしてまで来るということは、それなりに事情があるわけですね……内容次第、ということではダメなのですか?」

「うぅむ……事情が複雑でな。実際に見てもらうのが、もっとも手っ取り早いのじゃ」

 そういうのって結構あるけど、事前に知っておけば対策できたのに……なんてイベントがあるのもテンプレだ。

 失敗した場合がどうなるか分からないのだから、そこは気にしておくべきだろう。
 ……EHOでは、デスペナ以外にもペナルティがあるからな。

「それでもです。そこに理解力が尋常ではない『騎士王』さんも居ますので、話していただければ分かります……伝えることのできない内容、ということであれば構いませんが」

「……そこまで分かっておるか。仲介を依頼する際、ある程度のことは話しておる。簡易な説明であれば、それと同じことを話せばよかろう」

「そうですね。では、お願いします」

 それから焼き串を片手に、『龍王』から今回の事情を聴きだす。
 ……感想としては、やっぱりある程度聞いておいてよかったというもの。

「──何も知らないまま向かっていたら、私死んでましたよね?」

「? お主は『生者』じゃろうに……」

「死んでも問題ないという点と、死んでいいかという点は等しくありませんよ」

 正直、死んでも『死天』が働くのでさほど困りはしないのだが、それでも死に慣れるというのは人としての感覚が狂う。

 俺は狂人や変人にはなりたくないのだ……息子や娘が自慢できる、立派な父親であり続けるために。

「『生者』、お主の都合はどうじゃ?」

「あー、三日頂けませんか? 先ほどの話を聞いて、いくつか用意しておきたい物ができまして。それに、休人ですので予定の方がございまして」

「ふむ……分かった。では、また三日後にここを訪れよう」

 すでに『超越者』たちは俺が休人だと理解しているので、[ログアウト]で数日居なくなることを分かっている。

 その間に準備をしておくべきだろう……万全の支度を終えたら、竜の里に出発だ。


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