虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大量発生イベント その03


 スライムはRPGにおいて雑魚だが、昨今の創作物では最強扱いの場合もある。
 この世界では半々ぐらい、まあスライムの保有する能力次第で決まっていた。

 例えば、初心者の休人たちが相手するレベルであれば、棒で突けば死ぬ。
 しかし、一定の進化を経たスライムだと、ほとんどの攻撃を無効化する。

 身近で最たる例は【暗殺王】である。
 あのときは特殊な片栗粉で対処したが、今じゃその対応もされているだろうし、強引に吹き飛ばさない限りは殺せないだろうな。

 とはいえ、片栗粉を使うというやり方自体は間違っていない。
 大半のスライムはダイラタンシー流体──つまり、固体みたいになる液体だ。

「──というわけなのです。スライムの体は基本的に、水分に干渉することでどうにかなります。強制的に物理影響を受ける状態を促し、それから叩けばそれで済みます」

「……君の知識は、『超越者』の中でもかなり異質だよ。休人というものは、みんなそんな知識を持っているのかな?」

「ええ、まあ。大衆に広く知られている面白い知識、とでも言った方がいいですかね。私たちの世界でも、興味を抱きやすい現象だからこそ、知っている者も多いですね」

 テレビを観れば稀にやるし、ネットで調べればすぐに分かることだからな。
 今の『プログレス』持ちなら、情報の共有でも知ることができる。

「話を戻しましょう。方法は二つ、魔法で干渉するかアイテムで干渉するかです」

「アイテムはたしか、その片栗粉を使うんだよね? 君からの輸入でこっちにも入ってきていたけど……あれで本当にいいのかな?」

「ええ、すべてのスライムに通用するわけではありませんが、それでも作業効率を格段に向上させることはできるでしょう」

 体が片栗粉を消化してしまったり、片栗粉で処理できないほどの水分を含むスライム。
 他にも様々な要因で、通じづらいスライムが存在する。

 だが、今回の標的は『調料粘体フレーバースライム』だけ。
 ランク自体はそう高くないので、まあおそらくは通じるだろう。

「仮に通用しないのであれば、責任を以って新たな方法を提示しましょう。それこそ、成功するまで何度でも」

「……一度戻ってきたら、片栗粉を配布することにしよう。さて、ここからが本題だ──ここで君は、何をしたいのかな?」

 事情説明からようやく、俺の目的について話すことができる。
 とはいっても、やることはシンプルだ。

「そうですね、求めることはもっとも効率よくスライムを狩ることのできる場所を教えてもらいたい、ということでしょうか?」

 休人との争いが無い、迷いの霧が生じる森だからこそ頼めること。
 ……果たして、俺の要求は受け入れてもらえるかどうか。


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