虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大量発生イベント その01



 イベント世界

 タクマと話をしてから数日、俺たち休人はイベント世界へやって来ていた。
 念入りに準備をしていた俺は、姿を隠していつものように移動している。

 空から俯瞰するように眺め、ドローンが集めてきた音声をイヤホン越しに聞いて。
 物凄く偉そうな情報収集をしながら、独り言を呟いていく。

「……まあ、普通ならここで調査だよな」

 人族が住む街で、休人たちは今回大量発生している魔物について話を聞いているはず。
 どうやら告知はせずに、自分たちで情報を知り得ることも必要みたいだな。

「いずれは[掲示板]に上がるだろうし、情報屋も独占情報を早め早めに売り捌いていくだろうしな。外に出れば分かることでも、住民だからこそ知っていることもあるわけで」

 比率的には外に行くのが4で、内で聞き込みをしているのが6ぐらいだ。
 先手必勝とか当たって砕けるとか、とにかく魔物を倒すという考えもあるからな。

「……さて、俺はどっちなんだろうか」

 外には出ているが、魔物とは戦わないで迷わず一直線に移動している。
 転移で直接目的地へ行くのも良かったが、今は魔物の大量発生を見ておきたかった。

「……うん、アレだな」

 街の外に広がる草原で、休人たちがすでに戦闘を始めていた。
 普段なら多様な魔物が出ていてもおかしくはないが……今回は一種類のみ。

「『SEBAS』、あの魔物は?」

《──『調料粘体フレーバースライム』。その粘液が香辛料になるという魔物ですね》

「なんというか……このイベントのために用意された個体って感じがするな」

《いえ。過去、迷宮においてその存在が確認されております。運営はそのデータを参照して、大量発生させたのでしょう》

 まあ、スライムであれば基本的にどこでも生存可能だから問題ないか。
 色とりどりのスライムと戦う休人たちを見つつ、『SEBAS』と擦り合わせを行う。

「調料……つまり調味料、だよな。いろんな色なのは、その色に合わせた調味料をドロップするからで合っているか?」

《その通りです。赤であればケチャップ、白であれば生クリームなど、さまざまな調味料がドロップすることが確認できています》

「ふーん、いろいろと世界観が崩壊しそうな魔物な気がするが……それは今さらだな。ともあれ、今は色とドロップする調味料についての調査を欠かさないでくれ」

《畏まりました》

 俺は俺で、目的地で質問をしたり協力を要請するつもりだ。
 魔物としてすべてのフィールドに出現している以上、協力してもらえるはずだしな。


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