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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

目的探し その17



 東へ、ただ目的も無く進んでいった。
 行ってみようと訪れた休人の街を追放されて、いろいろと考えることを忘れていた……まあ、脳は回らずとも動けるからな。

「とりあえず、エリアボスをもう一体ぐらいは倒しておきたいな」

 さすがに帝国まで到着とは行かずとも、その前の道を阻む障害は断っておきたい。
 転移なら完全無視で行けるけど、やっぱりいろんなことを想定しておきたいからな。

「──『ビギナーソード』」

 改めて、武器を丈夫な剣に切り替える。
 そこに対した意味なんてないが、まあ冒険の気分を味わえるだろう。

 このフィールドではなく、エリアボスが居るのは先の場所。
 すでに休人たちは遥か先まで活動領域を拡大しており、途中の情報は開示されている。

 ボスの情報は先の『アイアンゴーレム』同様に、つまびらかにされていた。
 もちろん、どこにどういった魔物が生息しているのかも分かっている。

 先んじることのできない後続も、その分情報という点で有利。
 これがMMOにありがちな、法則というものだ。

「死んだら得られない称号とかがあると、特にネットで情報を集めながら挑まないといけないからな……仮にあったとしても、俺には絶対手に入らないんだけど」

 俺はともかく、うちの家族はそういうノーミスクリア称号をいくつか持っているけど。
 逆に失敗し続けることで貰える称号なら、俺でも何個か手に入れたんだが。

「魔物か……魔法を使うウサギ?」

『キュッ!』

 鳴き声と同時に、風の刃が俺を襲う。
 風兎と同じ感じだろうか……まあ、アイツのは魔法ではなく、森獣としての能力だったわけだが。

「今じゃ星獣にまで強くなって、その性能はさらに高まったわけだけど」

 単純な威力だけでなく、その精密さや効果範囲までパワーアップしている。
 おまけに『プログレス』も起動させて、能力の方も使えるからな。

「そんな劣化風兎が……5体。いや、風魔法じゃない個体も居るから、それはそれで違うのかな?」

『『『『『キュッ!』』』』』

「ハッ、上等──『バトルラーニング』」

 今は『SEBAS』の補正が無いが、もともと持ち主も同じくサポートなど無い。
 そして、すでに戦闘学習をある程度済ませているので、不完全ではあるが使える。

 元の主も自分の体は気にせず、最適な動きで戦うことを求めていた。
 その『プログレス』そのものを複製している以上、俺も同じ動きを強要される。

 だが案ずることなかれ、俺は死なない。
 ……正確には死んでも死んでも、決してこの場から離れることが無いだけだが。

 最適な動きで剣を振り回し続け、五匹のウサギ相手に無双プレイ。
 ……なんだか虚しくなりつつも、なんとか勝利を収めるのだった。


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