虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

目的探し その12



 グランドシップの名を冠した施設は、本当に現実で言うところの役所だった。
 番号で分けた部署に、人々がそれぞれ用を済ませるために寄っている。

 ファンタジー要素としては、書類整理やら呼び出しを魔道具で行っているなど。
 役所の中を調べて、いくつか気になる点を発見した。

「……この役所にも地図があるのか。で、資料室なんて場所もあるな」

 無料開放されており、今もそこは行くことが可能だ。
 持ち出しは魔道具で禁じられているので、気にならないのだろう。

「……休人のノリで、もう図書館が外にあるのにな。わざわざここにそれがあるのには、理由があるんだろう」

 ここに居る関係者も、なんとなく想像がついたわけだが。
 さっそく資料室に侵入……もとい、非合法に入室した。

「いちおう真面目な資料が多いな。けど、間違いなくアイツなら──ここだよな」

 資料室の奥、右角に置かれた本棚へ真っすぐ向かう。
 そこにある本も内容は真面目だが……問題はそこじゃない。

 とあるオンゲーで、俺はあるプレイヤーとこんな会話をしたことがあった。

『本棚に仕掛けって、いろいろとロマンだよな。いくつか押したり、そもそも出っ張っている部分に手を加えると、ゴゴゴッと動いて隠し通路が出るアレ』

『ロマンは不要だ。しかし、人が想像しない場所に、自分のみが知り得るものがあることはたしかに効率がいい』

『ならお前なら、どういう場所にその隠し通路を用意する?』

『……そうだな──』

 本棚に並べられた本は、それぞれの段に程よく詰まっている。
 それらをすべて中央に寄せて、右側と左側にスペースを作った。

 すると、五段ある本棚の台の左側に五つの鍵、右側には鍵穴が用意されている。
 俺はその鍵をすべて手に取り──最下層の段、その皮を剥ぐ。

「うん、やっぱりここに鍵穴があった」

 鍵にはそれぞれ「わ」、「た」、「り」、「ぶ」、「ね」と書かれている。
 俺はその中から「り」を選び、鍵穴に差し込み──回す。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 その先にあるのは、小さな小部屋だ。
 特別な物なんて一つも……いや、一つしかない。

 ポツンと置かれた魔道具は、放送室にありそうなマイクの形をしている。
 電源を入れ、起動を確認し……そこに声を出す。

「あー、あー……聞こえるか?」

『……聞こえている。相変わらず、気の抜けた男だな。なぜお前のような男が、あの女の伴侶となったのか、未だに疑問だ』

「いきなりそこまで言わなくてもいいだろうに……まあ、久しぶりだな」

『ああ、そこに関しては同感だ。代表、久しぶりだな』

 俺を代表と呼ぶ、男の声。
 その声の主こそ、『渡り船』においていつも副リーダーのポジションに就いていた──『ジンリ』である。


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