虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

目的探し その10



 E5

 完全な隠形、その対価は発動中に消費する魔力が尋常ではないことだけ。
 いちおうでもカンストした休人、999という魔力量でどうにか補っている。

 自然回復量を増やす『プログレス』というものも発見されているが、焼け石に水だ。
 それに……複数の起動は、いちおうではあるが制限が生じる。

「プログレスが言ってたっけ? どれだけ最適な組み合わせでも、一定数を超えると意図せぬ事態が生じるって」

 彼女曰く、その制限数は彼女に向けられた信仰度に合わせて少しずつ増大するそうだ。
 現状では四つ、なので『SEBAS』が制御しているときはオンオフを調整していた。

 しかし、今は俺だけ……そんな器用なことはできないし、非常時に備えておきたい。

「まあ、そんなこんなで安全な場所に着いてから使うわけだ──『ブレスレッド』」

 体内で仄かに起動の発光がエフェクトが発生すると、大きく息を吸い込む。
 それだけで、通常時の回復量を遥かに超えて魔力を補填できるようになった。

 まあ、さすがに999という数値すべてを瞬時に満たすことはできないが、通常の三倍ぐらいの速度で回復できている。

 瞑想などと違い、普通に歩くことも可能なので移動は続けていた。
 そして今、俺は都市の入り口まで辿り着いている。

「こっちの世界の人が衛兵なのか……まあ、こういうところは[ログアウト]する休人に任せてはおけないか」

 普段は使っていないマーカー機能で、対象がどちらかを判断可能だ。
 そういえば確か、今は呼び方も決まっていたな……『現人』、そんな感じだったか。

「まあ、一部の奴は原人とか蔑称で呼ぶ気もあるみたいだが、そんなことしてもロクなことにならないのにな……さて、行きますか」

 俺は虚弱だが、生産技術が優れている。
 それは何度かやらかしていることで、ごく一部の休人には知られていることだ。

 ここが休人の築いた都市なのであれば、それを知る者もいるかもしれない。
 まあ、長居をする気は無いので、こっそり侵入しても問題ないだろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪──休人『ツクル』を捕まえた者には、報酬金1億を支払うと約束しよう!≫

 さて、俺はこっそりと移動するはずだったのに……どうしてこうなったのやら。
 辺りには俺を追い、捕らえようとする人々の姿が確認できる。

 何も悪いことなんて……不法侵入以外は思い浮かばないというのに。
 それでも追ってくるならば、俺は逃げるという選択をする。

「いたぞ、こっちだ!」

「……はぁ、仕方ないか」

 ここに至るまでの過程は、そう長いモノではない。
 逃げながら、ゆっくりと振り返ってみることにしよう。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品