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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

目的探し その06



 E3

 本来、先ほどまでの森の存在するフィールドの先には、森獣が構築した霊域が在った。
 しかし前に語った云々もあって、霊域としての効果は失われている。 

「霊域だと魔物はノンアクティブになって、採取できるアイテムもだいぶ高品質になるんだよな。お陰で霊域を構築できた場所は、いいアイテムが取れるようになったよ」

 この地の森獣──風兎は善良な守護獣であり、住まう魔物たちのことを考えていた。
 そのため、よりよい安住の地へ移ることを決断した……その結果がこれだな。

 そう、彼らは全員で俺が再開発をした世界アイプスルに移住していた。
 そのため生命が枯渇して、魔力溜まりが失われていたわけだ。

「……さて、ついにこの先へ行く時が、また訪れたのか」

 森を抜けた先には高山が広がっている。
 そしてそこには、俺が東のフィールドへ直接行けないトラウマを刻み込んだであろう、守護獣(?)が住まう場所だ。

「アレって、獣で合っているんだろうか?」

 少々分類的に、獣と呼んでいいのかは微妙なだが、まあそれはともかく。
 そんな過去があるから、俺は初心者フィールドであるこちらに来ていなかった。

 まあ、それでも転移とかそういう便利な移動手段があったので、直接通らないでちょくちょく東にも行ってたんだけどさ。

「はぁ……覚悟を決めても、やっぱり緊張してくるな」

 木々の庇護を離れ、草木の少しずつ減っていく方へ向かう。
 高山へ続く道を進んでいくと、魔物たちが行く先を阻んでいく。

「……あの頃と違って、いちおうは真面目に戦えるんだよな──『ビギナーソード』」

 とある少年が発現させた『プログレス』を起動する。
 今はただ頑丈なだけの剣だが、発現者の成長に合わせて進化していくであろう武器。

 まあ、俺の成長はいっさい関係なく、あくまでその少年の成長なんだが。
 そんな剣を今から使うのは、できる限り真面目に戦うアピールだ。

 ……いやまあ、そんな簡単にトラウマは解消できないんですよ。

「せめて、行動を見てから判断してくださると助かりますね」

 誰に言うでもなくボソッと呟いた後、俺は剣を魔物たちに向ける。
 鈍色の蜥蜴はそれを挑発と受け取ったか、軽く咆えて突進してきた。

「……とはいえ、剣で何かできるわけじゃないから、ひたすら連打なんだけど」

 攻撃を受けては死んで、その近づいた体に何度も剣をぶつける。
 攻撃力が足りない分を、攻撃量で補うことで地道に潰していく。

 自動回復を超えるレベルで、延々と1のダメージを与えていく……そんな地味な闘いが幕を開いた。


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