虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

対プログレス 前篇



 ???

 どこか分からない不思議な場所。
 いちおう[マップ]も確認したが、亜空間ということしか分からなかった。

 まあ、『騎士王』のことなので便利な魔術でも使っているのだろう。
 そして隔離したのは、そうする必要があったから。

 そう納得し、少しだけ文句を言ってから本題に入った。

「──『プログレス』について、改めておさらいしてみよう。休人の[メニュー]から派生するシステムを基に、独自に個人のパーソナリティを読み取って能力を創り上げるシステムを加えた逸品だ」

「……改めて聞いたが、とんでもない代物だな。どのような技術があれば、体現することができるのだろうか」

「神代魔道具の一つに、無限の進化を遂げる可能性を秘めたアイテムがあってな。それを解析して、万人に使えるようにしたのが……この『プログレス』なわけだ」

「万人に、か。『超越者』では使うことのできない代物なんだがな」

 唯一、『プログレス』を使うことのできない集団……それが『超越者』。
 彼ら以外が持たない権能という力を持ち、圧倒的な力を誇る逸脱者たち。

 俺が使用に制限を設けたのは、彼らに対抗し得る手段として期待を込めたからだ。
 ……弱肉強食、これまで権能で勝利を得ていたのであれば、仕方のない結果だろう。

「『生者』一人の振る舞いで、このような大事になるとはな。後悔はしていないか?」

「……『超越者』の中に、いっさい罪を犯していない奴が居るかと聞かれて、肯定できるのか? 少なくとも俺は、手段を選ばず他者に害を及ぼす奴を知っている。だからこそ、決して間違いじゃないと思っている」

「そう、だな。我々の中にも、条件付きで生殺与奪に関わる者がいる。これまでは圧倒的な権能によって、反対する者を捻じ伏せてきていた……それも終わりなのだろう」

「『騎士王』、お前みたいな真面目ちゃんが取り仕切る必要は無くなるわけだ。対抗する術を持つ奴らが、ちょうどよく監視する機関にでも所属するんじゃないか?」

 古来より存在する『超越者』たちを、監視してきた機関。
 まあ、これまではそこまで大々的な動きを見せてこなかったが……状況は変わる。

 死んでも蘇る休人たちが、『プログレス』という手段を得て増長した。
 多種多様な能力を組み合わせ、未知に包まれていた『超越者』たちを突き詰めている。

「まだ居場所が固定されている奴らしか見つかっていないんだろう? 具体的には、誰が狙われているんだ?」

「ふむ、暗躍街の『拳王』や『賭博』、それに『薬毒』は間違いない。加えて、この街を訪れた『闘仙』や『龍王』、休人の活動範囲に含まれる『覇獸』や『学者』などはすでに捕捉されている」

「……『騎士王』、お前自身は? あと、この近くに『冥王』が居ると思うが」

「私は魔術で認識を遮っている。それに、未完成ではあるが魔術で『プログレス』から逃れる術を得ている。『冥王』は単純に、辿り着くことができないだろう」

 さすがというか、やっぱりというか……まだまだ一枚上手なんだよな、コイツって。


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