虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

二人の鍵



 アイプスル

 鍵の少女パシフィスを連れて、拠点に帰還する。
 そして、一人の少女を探して彼女と対面させることに。

「レムリアちゃん、ちょっといいかい?」

「なに?」

「君に会わせたい子が居るんだ」

 普人の姿をした、女の子。
 彼女こそ、幽源世界レムリアへと繋がる鍵となる少女レムリア。

 ……俺が世界を渡航できるようになってから、容姿にやや変化があったんだよな。
 肉体を霊化できるようになったし……推測だと、世界が変化を促しているらしい。

 とはいえ、彼女自身はその変化をあまり気にしていないようで……。
 金色に輝く瞳をパチクリと瞬き、俺が連れてきたパシフィスをジッと見つめる。

「!」

「……同じ?」

「多分ね。だから、会ってみてほしかったんだけど……話、してもらえるかな?」

「分かった」

 この世界に来て、彼女は変わった。
 初期は記憶が無いことにいろいろと戸惑っていたが、それを忘れて今の自分のまま生きると言ってくれる。

 ……それが過去の彼女にとって、幸せなことなのかどうかは分からない。
 だがまあ、少なくともこの星の住民と遊ぶ姿に不幸さは感じられないな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 遠目に二人が話す姿を眺める。
 いちおう会話は『SEBAS』が記録しているが、俺が知ることは無い。

 彼女たちは共に、記憶を持たない存在。
 過去を失ったのか、それとも過去がそもそも無いのかは分からない……が、現在彼女たちは俺の世界に居る。

 それだけで、この世界という受け皿ができて良かったと心から思う。
 始まりがすべてエゴだったからこそ、その後ぐらいは良い結果を生みたい。

「……そういえば『SEBAS』、レムリアは能力を発現させたのか? あれからもう、だいぶ時間が経ったと思うんだが」

《いいえ。移植、定着自体はしたのですが、それ以降の変化はございません。システムが機能している以上、読み取りと発現は必ず行われるはずです》

「となると……それ以外の原因が、あるってことになるな」

 レムリアの『プログレス』は、初期の宝石型から何も変化していない。
 発現していたら、宝石の色が変わったり内外の装飾が変化するはずなんだがな。

《詳しく調査いたしますか?》

「パシフィスを調べてからな。もちろん、無茶なことはしないが。彼女も発現させられないなら、何かしらの法則を見つけることができるはずだ。どうせなら、自分の能力を使ってほしいからな」

 この世界でいろんなことを学んで、そして自分だけのナニカを見つけてほしい。
 そのとき、『プログレス』は間違いなく自己を確立する切っ掛けになる。

 絶対に同じものはない、まさに自分だけの力なんだからな。


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