虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ヘルヘイム その10



「大量……いや、大漁だな。これだけ獲れると、さすがに別の用途が無いか考えたくなるよ。『SEBAS』、頼めるか?」

《御慧眼です、私もそのように考えておりました。この吸光率の高さは、再現に成功するだけでも多くの発見ができるでしょう》

「光の完全無効化とか、そういうアイテムもできるかもな。まあでも、光以外には耐えられないか」

《そうですね。今回は黒霧による保護がございましたが、通常時は光以外の干渉を阻む必要が生まれます。陽光であれば、光が帯びる熱など……複数の素材を重ねましょうか》

 先ののことを考えて話し合っていると、少しずつ霧が晴れていく。
 守護者である『星黒輝魚ブライトスターフィッシュ』を絶滅させたことで、封印が解放されたのだ。

「『SEBAS』、今さらなんだがこの場所は安全か?」

《問題ありません。ドローンによって、結界の構築を行っております。すでに黒霧の源流とも呼べるポイントは確認してますので、発生そのものを抑制できます》

「なら、いいか……そろそろ起きるか」

 すべての魚が死んだ時から、封印が解かれ鍵は活動を始めていた。
 鍵──異世界との接続を可能とする少女の目が、薄っすらと開く。

「──こ、こは?」

「初めまして。俺はツクル、ここは冥界の下の方。場所の名前はヘルヘイムだ。お嬢さんの名前は?」

「■、■■■■■」

「…………。そうか、『パシフィス』ちゃんか。よろしくね」

 本来はイベントフラグでも用意して音声を識別できないようにしているのだろう。
 しかし、『SEBAS』経由であれば、その制限も失われる。

《──パシフィス。旦那様の世界における、仮想大陸の一つ。有名なムー大陸やレムリア大陸などとは異なり、地質学的な物証がいっさい存在しなかった大陸です。すべてはつじつま合わせ、共通文化の証明のためです》

(……そっちはよく分からないが、つまり特別凄い大陸じゃないってことか?)

 さすがに本人には聞かせられないので、頭の中で考えるだけにしておく。
 まあ、それを『SEBAS』は読み取ってくれるので、会話は成立するのだが。

《何も無かった、それが故に特別な事象が起きる。そもそも、何も無いのであれば封印をぜずとも構わなかったはずです》

「……そういう考え方もあるのか。なあ、パシフィスちゃん。レムリアって言葉を知っているかな?」

「レム、リア……分からない」

「そうなんだ。君と同じような感じで、こういう暗い場所で出会った娘なんだよ。よければ、いっしょに会ってみないかい?」

 自分と同じ、今の彼女ならばそれだけで行くだけの価値があるだろう。
 まあ、だからこそそう言ったんだが……ともあれ、とりあえず確保できたな。


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