虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヘルヘイム その09
「ふへー、凄い戦いだな……」
俺の代わりに、すべてを『SEBAS』が請け負い戦闘が繰り広げられている。
……AIの反逆とか、そういうことはいっさい心配していないからこそ、できること。
俺は一時的にアバターの操作権限を剥奪され、そこに『SEBAS』がハッキングを仕掛けて占領。
代わりに擬似神経と呼ばれる回路と繋がることで、『SEBAS』が行っていることすべてをテレビ感覚で楽しめる。
「というか、普段から似たようなもんだし。結界越しに操作するって言っても、それもまた俺の支配しているのと同義だしな」
なお、現在俺の声が『SEBAS』に伝わることは無い。
呼べば反応してくれるだろうが、それは邪魔にしかならないので控える。
「さすがは『セバスチャン』。一時的にとはいえ、性能を強化してくれているな」
俺のアバターは貧弱だ。
設計時点からそのボディ──魄の虚弱さは決まっていたことなので、中身を入れ替えてもそこは変わらない。
しかし、魂を介した強化であれば別。
そして、『SEBAS』が運用している能力こそ『セバスチャン』──魂と魄を同時に強化できる希少な『プログレス』だ。
「条件1:俺が命じたこと、条件2:俺がその作業に手を出さないこと。これさえ満たせば発動できちゃうんだから、普通の強化能力が形無しだよな」
ある意味常時発動しているようなものなのだが、特に凄いのが効率の良さ。
ノーコスト、高出力、そして精神性……それらが相まって能力の性能を高めている。
「『プログレス』は想いを糧に生まれる。その能力をすべて他者……というか俺を起動条件にしないと使えないものにすることで、ありえないほど異常な性能にした」
創作物で例えるなら──制約と誓約みたいな感じだ。
自分で使うことのできない能力……周りから見れば、それはハズレでしかない。
しかし『SEBAS』にとっては、それこそを望んでいた。
執事として、俺に仕える──その在り方を体現した能力だろう。
「魂と魄の強化。つまり内と外から強化を行える……虚弱すぎる俺の体だが、今だけは普通の休人以上の代物になっている」
俺からすれば、全自動で戦ってもらえる便利な能力だ。
もちろん、そこには『SEBAS』の必死な努力があるわけだが。
先ほども言ったが、これは制約と誓約のようなもの。
俺には無いが、『SEBAS』の側にはその代償が存在している。
《──戦闘終了です。『セバスチャン』を解除し、神経の再接続を行います》
そんな声を聴きながら、改めて俺は闇の中へ向かうのだった。
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