虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヘルヘイム その05
ヘルヘイム 深層
上層は北欧神話『らしさ』というものが感じられたが、やはり下層には文明という概念が失われている。
「例のごとく霧は漂っているし、生命反応は皆無……だけど、これだけは違うな」
《どうやら同じ地下世界の地形、そして泉が再現されております》
「眼を捧げたら叡智が手に入るとか……そういう感じか?」
《霧の影響か、そもそも霧が再現したモノなのか。いずれにせよ、神性を感じられない代物ですので、捧げて何も起きないでしょう》
灼熱の業火や極寒の冷気など、黒い靄がそれらを纏っている。
おまけに『SEBAS』がドローンを飛ばして撮った光景に、泉が映っていた。
それは北欧神話でも有名な物なのだが、どうやらここのヤツは偽物らしい。
せっかく休人なら、どんな代償を捧げても蘇れば治るというのに。
「……いや、それは違うか。たとえそれまで無敗だったとしても、オーディンの爺さんは確実に死んだわけだし」
《可能性はいくつかございます。泉に何かを捧げた際、それらが正常な状態であると改変される。ヴァルハラの死に戻りでは、それらの再構築が行えない。そして、事象のリセットを行っている、などがございます》
「事象のリセットが気になるな。他のはだいたい意味が分かるから余計に」
単純な死に戻りとは違うということだし、それが『生者』に悪影響を及ぼさないという保証は無いんだからな。
《畏まりました。事象のリセットとは、結界内部などで行われたすべてを白紙に戻すということ。経験などを持ち出すことはできない代わりに、消費したものすべてを無かったことにできます》
「無かったことに? 経験値が得られないのは嫌だけど、たしかにそれはそれで便利なものだな……」
消耗するモノとはアイテムだけでなく、回数制限のあるスキルも含まれるのだろう。
人よりもそういった能力の数が少ない俺でも、称号でその恩恵にあやかっている。
実験をする、何も失いたくないということならばそういう結界も使いやすいか。
《ですが、ヴァルハラでの戦闘で旦那様が経験値や称号を得ているのは確認済みです。なので、完全なリセットということではないのでしょう》
「死に戻りと同じパターン、または都合のいいリセットが行われているってことか?」
《おそらくは。神代以上に複雑な、ルーンを交えた特殊な結界であったため、解析は非常に困難です》
「……諦めるとは行かないが、少しずつ地道にやっていこう」
なんて会話をして、ある程度状況確認を済ませる時間は終わった。
ここからが、深層の冒険だ……覚悟を決めて、奴らと向き合う覚悟を定めたよ。
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