虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヘルヘイム その04
「鍵の居所に関しては、私たちも把握できておりません。お父様がいったいなぜ、そのように仰ったかも不明ですが……それはいつものことですので」
「いつものこと、ですか?」
「ええ。あるときも突然異世界へ行こうと仰り、ヨルとフェルを連れて……ワタクシだけお留守番でしたが!」
「そ、そうなのですか……」
本当に苦労しているんだな。
悪戯の神であるロキの娘ヘルの愚痴を聞いていると、改めてそう思えた。
苦労話はどれも、ロキが言っておけばすべて解決できることばかり。
意図してそういった事態を引き起こし、巻き込まれた者たちの反応で楽しんでいた。
それでも父親のことを嫌いにはなれず、複雑な心境のご様子。
同じ男親としては、ロキにも弁明のチャンスをと思ったが……うん、無理だな。
「……一方的に申し訳ございません。鍵の話ですが、直接の協力はできませんが移動に関して制限は与えません。どういった影響があるか分かりませんが、鍵の譲渡を求めることは無いと誓いましょう」
「ありがとうございます。ほんのお礼ではございますが……こちらをどうぞ」
最近よく配っている『プログレス』を、ここでも配布しておく。
別に『冥王』は何も言っていなかったし、別にやっても構わないだろう。
「ありがとうございますわ。先日のラグナロクから、ずっと気になっていましたの」
「そうなのですか」
「ええ。お陰で現在の数のまま、作業効率を上げることができますので」
これまで浮かべていた憂いの表情は、嫌いになれない父親に対する困った笑みのようなものだった。
しかし現在、ブラック企業ならぬブラック世界になりかけている現状を思って浮かべた表情は、なんだか達観した目と共に作られている……どんだけなんだろうか。
◆ □ ◆ □ ◆
許可は出たので、ヘルヘイムに眠る鍵の捜索を再開する。
念のため表層はじっくりと探したが、やはりどこを探しても見つからなかった。
「となると、レムリアみたいに下の層で眠りに着いている可能性が高いか……下への入り口はあるか?」
《すでに。ですが、どうやら少々問題もあるようでして……》
「問題だと?」
大抵のことには動じない『SEBAS』が問題というのだから、相当ヤバい案件なのかもしれないな。
《表層はヘルヘイム、つまり北欧神話における死者の世界の在り方をなぞっております。ですが深層において、それらの法則が通じていないようです》
「……えっと、つまり?」
《『冥王』の統べる冥界と、類似した環境にあると思われるのです》
「…………あっ」
かつて殲滅した、最悪の敵。
それと再び退治しなければいけない……つまりは、そういうことだ。
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