虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ヘルヘイム その03



 労働基準がしっかりとしている死者たちが製造しているのは、巨大な船だ。
 ただし、伝承通りに爪に似たナニカを用いるのではなく、それこそ普通に造っている。

「──:DIY:起動っと」

 俺の生産技術を神域まで高める能力を行使して、周囲の情報を探っていく。
 離れた場所から見ているので完全では無いものの、ある程度の情報を把握できる。

 そしてそれらの情報はすべて、俺の頼れる執事である『SEBAS』に届く。

「ふむふむ……どうだ、『SEBAS』?」

《通常の船と同じというわけではなく、この世界の物質を基に改築しているようです》

「爪じゃなくなった理由は、どう説明すればいいんだ?」

《耐久性でしょう。死者の爪以上に優れたアイテムは、この世界にいくらでも存在しますので。現在も、加工技術を持った死者によって木材を加工しております》

 たしかにそれを行っている死者が、近くに見受けられるな。
 ルーン文字や錬金術など、そのやり方は多岐に渡っているようだが。

「さて、この世界から探さないといけないのか。どこに居るんだろうな……あの船の動力源でしたってオチだけは、勘弁してほしい」

《そう考え、ドローンを優先的に飛ばしましたが反応はございませんでした。レムリアの波長と類似したモノを探知しておりますが、それらしき反応はございません》

「表層、というか普通の場所には居ないってことなのかもな。となると、下に行く方法を考え……なくてもいいのか。こういうのを引き継ぎ要素とか、強くてニューゲームとかそういうのか」

 俺には称号『生冥の迷い人』があるので、そこに付与された権限を行使できる。
 それはすべての冥界で使用できるモノなので、このヘルヘイムでも利用可能だ。

「とはいえ、管理者の許可なしで行くのは問題が起きるかもしれないな……まずは、そこからだな」

 少なくとも『冥王』の権能であれば、冥界のすべてを把握することができていた。
 神である彼女にも、そういった力が備わっていても不思議ではない。

 ──あとで揉めないように、今さらながら許可を取っておく必要があるな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──話はお父様から聞いています。どうぞお好きになさってください」

 居城に住まう彼女は、俺の話を聞く前からそのように言った。
 どうやら根回しなども、あの悪戯神がしっかりとしていたようだ。

「お父様曰く、貴方は『クソ爺の鼻っ面をへし折ってくれた恩人』のようです。実際、主神様の強さは驚くべきもので、ヘルヘイムの参加者が勝つことはなかなかありませんの」

「そういえば、参加していましたね」

「……そう。居ても居なくても、変わらないような扱いですの。そもそも、ここに居るのは生前に悪行を成した者や老人など、戦いに必要とされない者たちばかり。自分から望んで来た者が、ほんの一握りでしょうか」

 人材、足りないんだな。
 そして彼女──ヘルの憂いた表情は、悪戯神の娘とは思えないものだった。


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