虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヘルヘイム その02
ヘルヘイム
死者の国と称されるそこは、凍えるほどの冷気が漂う死の世界だった。
単純な寒さとは違い、心から冷え切る……といった感じだろうか?
《死亡ログを閲覧……精神への干渉が確認されました》
「休人はセーフティがあるから効きはしないだろうが、それでも存在自体はするんだな」
休人は精神の安全が保障されており、何かあればすぐ現実へ緊急離脱できる。
……洗脳とか魅了とか、そういう効果を現実まで持ち越さないための仕組みだな。
だが体自体に通用しないというわけではなく、一時的に意識を隔離しているだけ。
精神を殺されるような攻撃を受ければ、意識は守られるが肉体は動かなくなる。
そのため死を感じ取った俺の虚弱な体は、寒さに負けて死に戻りを行っていたようだ。
すぐにそういったことが分かるのも、ある意味『生者』の特権だな。
「まずは状況の確認からだな。俺から見た範囲だと、マジのブラック企業な光景が広がっているんだが……北欧神話だと、死んでもこき使われているのか」
《いえ、彼らは労働に殉じることで許しが与えられます。そしてそれはポイントになり、ある程度自由が提供されます》
「ポイントって……ずいぶんと俗だな」
《彼らの会話を記録した限り、発案者は彼の神ロキであると思われます》
あー、なんか言ってそうだな。
トリックスターの異名を持つあの悪戯神であれば、そんないかにもなアイデアをさまざまな場所で漏らしていても不思議ではない。
ちなみにポイントの活用法は──アイテムの取り寄せや休暇の獲得、他には職場変更など多岐に渡っているそうだ。
ブラックな仕事ほど貰えるポイントが高いので、基本的にはみんな体が疲れないことをいいことにそれをやっているんだとか。
「自分からやるのかよ……」
《三食休憩付き、そして労働時間に応じた有休もございます。特に前線で働く者たちには特別手当などが付くため、一番人気の職場となっているそうです》
「……グレーだなぁ、いろんな意味で」
合法非合法という話ではなく、ホワイトとブラックの合わせ取りという感じである。
それで彼らが満足しているのであれば、別に俺が関与することではないんだろうけど。
「骸骨や亡霊たちが、こぞって作っているアレは……」
《ナグルファル、なのでしょうか?》
さすがの『SEBAS』も、確信はできていないようだ。
本来作られているそれは、死者の爪でのみ完成する代物だ。
こういった変化もまた、ラグナロクを何度も経験した世界ゆえなのだろうか?
そんなことを思いながら、辺りの調査を続ける俺だった。
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