虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヘルヘイム その01
冥界
普段ならやることを終えたらゆっくりとするのだが、ある程度情報収集も済んだのですぐに動くこととなった。
何にそんなに急ぐのか、それはヴァルハラでロキに語られた話が原因だ。
「──北欧神話における冥界に、世界の鍵が眠っているか……」
《ヘルヘイム。北欧神話において、ニブルヘイムと同一視される、死者の世界です》
「こっちだと、それらは別なんだな? たしか、『冥王』が教えてくれたな」
《二つの世界を隔てる川がございまして、それらは異なる世界という認識を与えられております。なお、他にもムスブルヘイムと呼ばれる世界も地下にございます》
極寒の世界に灼熱の世界、目的地以外にも地下世界には厳しい環境が存在する。
それでも世界の鍵を誰かに奪われないためには、その先に向かわねばならない。
「準備はできているんだよな?」
《はい。旦那様の指示を受けて、すべてご用意ができております》
俺だけなら、どこかで何かやらかしてしまうが、『SEBAS』がすべての準備を終えてくれているのであれば、何一つ心配する必要などない。
「さて、そろそろ行かないとな……どうせ知覚はされている。少なくとも、支配領域が異なる所に行かないと」
現在、俺が居るのは冥界の表層。
多様な文化における死の世界は、それぞれ表層から向かうことができる。
そう、『プログレス』の対価に『冥王』から聞いていた。
侵入方法も習ったが……まあ、順当な方法だと思ったな。
「証はある意味、いつでも持ち歩いているわけだな。始めるか……ここ、だったな」
冥界において『冥王』が統べるここは、すべてに通じていると言っても過言ではない。
素材集めで訪れた『妄失の荒野』、その先に存在するとある場所へ俺はやってきた。
「デカい門だな……けど、何も装飾が無いのもそれはそれでつまらないな」
《対象が証を示すことで、座標は刻まれ門そのものが転移の媒介となる仕様ですね》
「ふーん、それじゃあさっそくっと」
特別な物は特に要らない。
俺は自分自身の掌をペタリと門に張り付ける……それだけで、変化が生じる。
門が一瞬光り輝くと、何も描かれてなどいなかった扉に装飾が刻まれた。
それは半人半屍の女王が、死者たちを支配するレリーフ。
「うーん、どういう世界なのかを如実に表してくれている……のか? 前のラグナロクでどういう人となりか、見ておけばよかった」
これこそがまさに、ロキの娘であるヘルの統べる世界ヘルヘイムへと繋がる扉。
俺はそのまま門を押し込み、その先へと向かうのだった。
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