虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス談(01)
ツクルが去った小世界ヴァルハラにて、語り合う老人と少女の姿をした神々。
一柱は世界における最高神、無数の貌を持つ隻眼の神──オーディン。
対する少女は無名も無名、誕生したばかりの眷属神。
だがその知名度は、鰻登りなメイド服姿の女神──プログレス。
「まず初めに、私では無い方のプログレスに関する内容を。『生者』である御主人様は、多世界でのプログレスの普及に努めております。その理由は──」
「生存率の向上、じゃろう? 試供品の方のプログレス、それはもう視させてもらった。実際に利用している場面もあったが……あちらは『生者』の印象が強すぎてのぅ」
「御主人様は私を生みだした存在。それゆえに、ありとあらゆるプログレスを使う権利がございますので」
「……難儀じゃのう、奴も。まあ、そちらは良い。問題は蘇生に関する事じゃったな」
北欧神話において、不死は存在しない。
正確には不死の神も存在したが、それらは何らかの手段でその権能を引き剥がされ、必ず死する運命へと導かれていった。
プログレスには、ラグナロクでも用いられた能力が存在する。
それは死の運命を覆す、その可能性を秘めたものだった。
「もっとも多くプログレスを用いた英霊たちが、今回のラグナロクで無数の功績を成し得た。特に大きかったのは……」
「はい、戦乙女による神殺しですね。こちら側でも、把握しております」
それはツクルと契約した戦乙女──アインヒルドが、軍神テュールを倒した事実。
不可能ではない、しかし無数の要因が複雑に絡み合った結果できた奇跡に近い事象。
「彼女たちは巫女であり精霊。こちら側の匙加減で行いそのものは許容されていようと、行いを可能とするだけの力を持たない……はずじゃったのじゃがな」
「あちらに関しては、プログレスはあまり関係ありませんでしたね。死の運命を覆してはおりましたが、それだけです。彼の神の経歴はこちらでも把握しておりましたが……末恐ろしいですね」
「そう言ってやるでない。奴も奴で、いろいろなんじゃよ。ともあれ、プログレスは希望であり絶望じゃ。格上殺し、神殺し、本来は小数点以下の可能性を、手繰り寄せては起き得るべく事象すらも書き換える」
誰かが運命を覆せば、その他の者にその影響が及ぶ。
プログレスが運命を変えれば変えるほど、それは他の者たちを揺るがしていく。
「ですがそれは……」
「うむ。星の理であり、『超越者』であり、何らかの要因ですでに起きていたことじゃ。弱肉強食、それがありとあらゆる存在に適応されるだけじゃ」
「はい、本題はここからです。■■■■様からのお言葉を、お伝えいたします」
そして、彼らは語り合う。
新たな世界を……プログレスのある世界を生きるために。
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