虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ラグナロク後 その06



 結論から言えば、周囲は死屍累々。
 俺も『SEBAS』に相談して、何か策はないかと聞いてはみたが……残念ながら、どうにもできなかった。

「なぜ、このようなことに……皆さん、宴ということではしゃぎすぎたのでしょうか?」

 などと、本人は供述している。
 メシマズ属性を持ったアインヒルドの料理は、遺憾なくその力を発揮した。

 一生懸命作ったことに変わりはなく、誰も食べることを拒めなかったのが問題だ。
 神族すらもダウンに追い込んだ料理を口にして、平然としているのは彼女のみ。

「──誰も言わないから俺が言うぞ。アインヒルド、お前は料理下手なんだ」

「…………そ、そんなはずは」

「現状を見ろ、そして受け入れろ。宴云々ではなく、お前の料理がこの惨状を生んだんだよ。信じられないなら今度誰かに聞いてみればいい……みんな目を逸らすからな」

「あ、あぁああ……」

 予め逃げることに成功していた者を除き、参加者はほぼ壊滅。
 それは俺が周囲に結界を展開していたからであり、ある意味俺と彼女による共犯だ。

 今回の悲劇を糧に、彼女にはしっかりとした自覚をしてもらいたかった。
 自分には、無自覚の才能があったと……いや、災能が秘められていたと。

「わ、私は……もう、ダメなんですね?」

「まあ、少なくとも自分独りでやったものはダメだろうな。なあ、どうしてわざわざ俺が料理を進めたか分かるか?」

「……この話の流れからして、おそらくロクでもない理由なんでしょうね」

「御明察。俺だけだよ、この場で立っているのは。そしてそれは、『生者』の権能が無ければ成し得なかったことだろう」

 俺は料理を食べたが、ある意味においては食べていないのだろう。
 人は味を感じず、物体を飲み下すことを食べるとは言わず……処理をすると言うのだ。

 もちろん、目的は『死天』の権能による大量のアイテム生産。
 彼女の料理(仮)を口に入れるたび、俺は新たな力を手に入れていたわけだ。

「アインヒルド。お前は、何のために料理を作ったんだ?」

「何のために、ですか」

「自分が作りたかったからか? 誰かに料理が振る舞いたかったからか? 理由はどうあれ、想いが乗るのは好いことだ。だが、そこには知識と技術が伴なうことが前提だ……認めてくれ、お前の料理は料理じゃない」

「……そう、ですね。これまでさんざん否定してきました。自分でも、心のどこかで理解していたのかもしれませんね」

 少々悲し気に、そんなことを言い出す。
 だが、これに関しては心を鬼にしなくてはならない……どれだけ彼女が頑張ろうと、変わらない限りは一生メシマズだろうし。

 ──まあ、できる限りなんとかできないかは協力するつもりだけど。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品