虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ラグナロク その17
『起動──『マーシャルアーツ』!』
アインヒルドの『プログレス』が、初めて起動した。
発現したそれは、アイテムとして姿を現すわけでも、周囲を支配するわけでもない。
それが発現した先は、彼女の手の甲。
ただ綺麗な新円の模様が描かれ、それ以外の効果をいっさい発揮しない。
彼女自身は能力をすでに確認しているようで、動きに迷いは見受けられなかった。
剣を握り締めた彼女は、単独で彼女たちの道を阻む軍神テュールへ挑む。
『──“雷鳴斬”!』
『無駄だ!』
剣の武技を使い、雷を纏わせた刃で果敢に攻めるアインヒルド。
それだけであれば、これまでもやってきたことだ……当然、テュールも対応している。
『──“一閃突”!』
『ッ……!?』
彼女が次に放った武技に、テュールは一瞬動揺した。
それもそのはず、彼女が使ったのは本来槍系統の武器でしか使えないはずの武技だ。
《『マーシャルアーツ』は、一定時間に限り指定した武器種の武技をどのような武具を用いようと使用可能となります。現状では、一種類の武器を一分が限界でしょう》
「デメリットは、その十倍の時間を回復に当てないといけないのか……そろそろ、アインヒルドがヤバいな」
剣でなくとも、『千変宝珠』の形状を変えることでさまざまな武器で、槍の武技を使用することができた。
なのでしばらくは、その異様さにテュールも苦戦していたようだが……慣れてしまえば対処も簡単にできてしまう。
要は使っている武器と槍の武技、両方を警戒すればいいだけの話だからな。
それに対応したテュールが、少しずつ押し返していった。
「まあ、どれだけ頑張っても結果はこうなるわけだ。あーあ、どうせなら使わないままの方がよかったのにな」
《ですが──》
「分かってます、分かってますよ。それは優しすぎるってな。でも、本来は必要のないことでもあるんだから」
十分という時間は戦闘中においてとても長く、到達することはほとんどない。
今回もまた、それは適応し……アインヒルドの体に、テュールの剣が刺さる。
それによって、起きる事象は決定事項。
彼女の体は光に包まれ──
《起動成功、確認しました》
「真面目にルールに従うわけないよな。事前に承諾してもらったんだ、頑張ってくれよ」
渡していた鎧『戦乙女の鎧』には、とある『プログレス』の能力が組み込まれている。
能力名は『ライフアライブ』、条件を満たした味方の命で蘇えることができる能力。
淡い光に包まれていた彼女は、俺が発光するのと同時に元の状態に戻る。
それで何が起きたのか、理解したのか……再びテュールの不意を突くアインヒルド。
今度はさすがに予期していなかったのか、かなりのダメージを受けたようだ。
さて、順調順調……この調子で、危機から脱してもらいたい。
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